将来の取り壊し、高い更地価格での売却に備える
定期借家契約にすれば、立ち退き料、移転料等のコストを前もって確定し、経費として処理することができます。
数年前、銀座の一等地にある古いビルのオーナーから、建て替えの相談がありました。70坪の土地に、9階建ての築40年というビルです。銀座周辺の一等地は古い建物でも建て替えになかなか応じず、または多額の移転料等が要求されます。そのため、いったん定期借家契約を各戸と結び、3年後あるいは5年後に建て替える選択をしました。
その後1階から交渉をはじめ、難航を極めたテナントもありましたが、丸2年で定期借家
に伴う賃料の減額、移転したテナントについてはリーズナブルな移転料を払い、全テナントの定期借家への変更が実現しました。
このように処理することで、定期借家契約の終了時に取り壊し、高い更地価格での売却が
可能になりました。もちろん建て替えて新しいビルを建築することもできるようになり、将来相続したときの相続人の悩みを事前に取り除くことにもなります。
多額の債務が残るマンションを更地にして売却した例
多額の債務が残ったローンを返済するために、古くなった収益物件を高値で売却する方法
も有効です。Aさんの事例の解決策を見てみましょう。
Aさんは財閥系の役員の奥さんで、東京都内・旧山手通りの近くに300坪の敷地を所有
し、外国人向けの高級賃貸マンションを建てていました。ところが、賃貸経営を始めてから10年が経ち、日本の不況が続くなかリストラなどで居住する外国人が減り、半分が空室となってしまいました。
家賃を下げざるを得ず、さらに「エアコンが壊れた、エレベーターの補修パーツが壊れた」など、管理会社がきちんと対応すべき細かなトラブルについてもオーナーであるAさんに了解を取りにくるので、Aさんは心労から心臓の持病が悪化し、さらに体調が悪くなってしまったのです。
一方で、Aさんにはマンション建設のための多額の借り入れが残っています。このまま売
却すれば、半分しか入居していない状態の利回りを評価した金額でしか買い取ってもらえないので、大きなリスクがあります。
当時の金額で借り入れが約2億5000万円残っているのに対し、マンションの時価が3億円足らずだったので、マンションを売却できても諸費用・税金を差し引くと債務が残りかねない状態でした。
相談を受けた筆者は、結局、土地を高く売却するには更地にして売るしかないと考え、残っている入居者に相場の立ち退き料を提示して立ち退いてもらい、6億5000万円で大手不動産業者に売却しました。
高額で売却できた理由は、何より土地の条件・環境などが周辺地域と比べて抜群に良かっ
たことです。一定以上の広さ、希少性のある旧山手通りの近く、そして更地であったため、大手不動産業者が食指を動かしたということです。
入居者に立ち退いてもらうための交渉・説得も重要で、単に金額的なことだけでは解決できない場合もあります。この例では、各戸にAさんの病気の診断書コピーを添付して、マンション経営が難しい窮状を示すレターを送り、丁寧に解約の申し出を行いました。
なお、更地にして高く売る場合については、取り壊し費用についても確認しておくべきです。いまの相場では木造の場合で坪当たり3〜5万円、鉄筋が入っていると7〜9万円はかかります。できれば、所有者側が自ら解体業者に見積もりをとり、解体したうえで売却するほうが高く売りやすいのでおすすめです。
買い主側で解体するとなると、費用の見積もりが高くなったり、その分土地の売却額を下げなければならないこともあるからです。