公正証書遺言があっても…
余命宣告から半年後、母は亡くなります。Aさんも弟も一度結婚したものの、わずか数年と短期間で離婚した過去があり、遺された家族は兄弟2人きりです。葬儀が終わり少し落ち着いたころ、公正証書遺言が公開されました。
「は?」Aさんが、思わず聞き返してしまうような内容でした。母の遺言書に付言※がありました。「お父さんは子どもたちを厳しく育て、特に弟には寂しい想いをさせ続けてしまった。最後ぐらいは弟に多く渡してあげたい」とあったのです。
すでに現金は多く残ってなかったため、家(2,500万円)は弟に、現金1,000万円は等分にとの内容です。Aさんは両親の介護のため、55歳で早期退職し、父から相続したお金を使いながら、自身の身を削って母の世話をしてきました。Aさんは弟に、「母が決めたとしてもズルいだろう! 母が亡くなるまで、介護してきた費用等、こっちが負担した分ぐらいは、渡してほしい」と激怒。弟を殴りかねない剣幕で詰め寄ります。
しかしながら、弟は「母との思い出を独り占めにして、母の年金も好きに使っていたのだろう。むしろその分を返して欲しいぐらいだ」とわけのわからないことをいいだす始末。
結局、Aさんの相続分は、両親からそれぞれ500万円を受け取りましたが、父の分は母の生前に使ってしまったため、残りは母からの相続分、500万円。無職のAさんにとって、老後破産の可能性も否めません。
一方、弟は父の相続分500万円、母からの家と現金で3,000万円、合計3,500万円をなにもしないで手に入れたような結果となりました。いまは兄弟で連絡することもなくなり、絶縁状態です。
兄弟でもめないためには
Aさんのように家庭環境によって、公正証書遺言があってももめる結果となることもあります。母の生前に、終活の話し合いをしておけばよかったとAさんも後悔しています。親の介護も兄弟で分担する話し合いをしていたら、現状が大きく違っていたかもしれません。
三藤 桂子
社会保険労務士法人エニシアFP
代表
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