●経済対策の真水は20兆円程度とみられ、景気を一定程度支えるも需要創出効果は限定的か。
●103万円の壁に一定の仮定を置き、今年度は前年度比0.3%、来年度は1.2%の成長を予想。
●経済対策への株式市場や海外投資家の反応は限定的、目先は103万円の壁の議論に要注目。
経済対策の真水は20兆円程度とみられ、景気を一定程度支えるも需要創出効果は限定的か
政府は11月22日に「国民の安心・安全と持続的な成長に向けた総合経済対策」を閣議決定しました。今回の経済対策は、①日本経済・地方経済の成長、②物価高の克服、③国民の安心・安全の確保、の3本柱で構成され、半導体や人工知能(AI)分野の強化、住民税非課税世帯への給付金支援、1月の能登半島地震と9月の豪雨災害からの復旧・復興支援などが盛り込まれました(図表1)。
財源の裏付けとなる2024年度補正予算案の一般会計からの支出は13.9兆円程度、特別会計などを合わせた財政支出は21.9兆円程度となる見込みで、弊社は直接的な経済効果がある国・地方の歳出(いわゆる「真水」)を20兆円程度とみています。経済対策は、来年以降の景気を一定程度支えると思われますが、高い消費性向や投資性向を期待できる政策が少ないため、際立った需要創出効果は限られると考えています。
103万円の壁に一定の仮定を置き、今年度は前年度比0.3%、来年度は1.2%の成長を予想
なお、経済対策のなかで、年収が103万円を超えると所得税が生じる「103万円の壁」については、国民民主党の要望にそって、2025年度税制改正のなかで議論し、引き上げると明記されました。今後のスケジュールは図表2の通りで、政府は11月28日に臨時国会を召集し、12月9日から2024年度補正予算案の審議を開始、臨時国会の会期末である12月21日までの成立を目指します。
103万円の壁の引き上げ議論は並行して行われ、2025年度の税制改正大綱で引き上げ幅が決定される見通しです。弊社は103万円の壁の引き上げについて、国民民主党の要求(178万円に引き上げ)の半分程度を仮定すると、減税規模は3.8兆円程度、需要創出効果はGDP比で0.2%程度になるとみており、経済対策と合わせ、2024年度の実質GDP成長率は前年度比0.3%、2025年度は1.2%を予想しています。
経済対策への株式市場や海外投資家の反応は限定的、目先は103万円の壁の議論に要注目
経済対策は、おおむね事前に報道されていた通りの内容となり、株式市場にとって、特にサプライズとはなりませんでした。3本柱のうち、①日本経済・地方経済の成長において、AI・半導体産業基盤強化フレームの策定や、資産運用立国の実現に向けた取り組みの加速などが示されましたが、基本方針や現状の施策の説明であったため、海外投資家の反応はあまり大きくなかったように思われます。
今後、比較的大きな市場の反応が予想されるのは、103万円の壁の引き上げ度合いです。仮に国民民主党の要求通り、178万円に引き上げられた場合、減税規模は7.6兆円程度が見込まれます。恒久減税となるため、消費へのプラス効果が期待される一方、すでに地方自治体からは税収減を不安視する声が出ており、2025年度の税制改正大綱において、どの程度の上げ幅で着地するかが注目されます。
(2024年11月25日)
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『「今回の経済対策」は株式市場の予想通り 今後は「103万円の壁の引き上げ度合い」に注目か【解説:三井住友DSアセットマネジメント・チーフマーケットストラテジスト】』)。
市川 雅浩
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
チーフマーケットストラテジスト