「GQ」「JQ」「AQ」の3つで品質を分類
前回の続きです。
③品質の表示と価値の目安
本連載では、種類・産地・処理の有無が確定した宝石は、非常に美しく希なジェムクオリティ(GQ)、ジュエリーとして広く使われているジュエリークオリティ(JQ)、美しさは十分ではないけれども装身具として楽しめるアクセサリークオリティ(AQ)の3品質に分けて表示します(下記の図表参照)。
3品質の価値の目安はそれぞれの中位の品質で、筆者が見た現在の市場に対応したものです。GQの中で特に秀でたものにはプレミアム価格がつき、AQの中でリジェクションに近いものは数分の1に下がるなど、品質で大きな差が生じます。
また、時期や、特別な需要によって価値が大きく変動することもあります。価値の目安は大局をつかむためのものと考えてください。
35マスからなる「クオリティスケール」
宝石に二つとして同じものはありません。品質をとらえるために、横軸に「姿と輝き」(美しさ)の5段階、縦軸に濃淡の7段階、計35マスからなるクオリティスケール(品質の物差し)を使います。
美しさと濃淡の段階を宝石に当てはめてGQ(ブルーのゾーン)、JQ(グレーのゾーン)、AQ(イエローのゾーン)を判定します。最終的な判定は、不完全性が欠点でないことや、石の大小によって最適な濃淡があること、地域や時代によって価値が変わることをふまえて行います。
判定が難しいときは、フィギュアスケートの判定のように多数決で判定されるという性格を持っています。
需要が多い場合に、リジェクション(AQに至らない宝石外と見なす品質のもの)がAQとして販売されることがあります。それが多くなるとGQ、JQの比率は下がり、少なくなると上がります。比率は、あくまでも目安と考えてください。
需要に対し供給が少ないからこそ生まれる「希少価値」
④価値のつき方
宝石は、無闇に高いものでも安いものでもありません。ここでは、「宝石の価値はどのようについてきたのか」「同じような宝石に、なぜ高いものと安いものがあるのか」をまとめます。
宝石は美しく、硬度が高く、耐久性に優れているゆえに、人々に取り上げられて流行します。身に着けて宝石の美しさを楽しむ人々が周りに影響を与え、やがて、その宝石は一般に行き渡って慣習となります。
さらに、社会で望ましいと判断されて次の世代に伝えられ、伝統が生まれ、確固たる需要の上に価値がついてきたのです。伝統を受け継いできた宝石の価値には重みがあります。
なぜ、ミャンマー・モゴック産〔無処理〕の10ctサイズのルビーに数億円の価値がつくのでしょうか。
それは次のように考えます。世界人口70億人のうち、宝石好きが1億人いるとして、その人たちが1年間に市場に1個出るか出ないかのルビーを欲しいと望むからです。
過去何百年間に人が地中から掘り当てた数十個のルビーは、現時点では誰かの手中にあり、めったに市場に現れません。もし、1年間に1000個市場に出る宝石があれば、希少性は低くなり、100万円。1万個市場に出れば、10万円。そして、100万個が出れば、欲しいと思う人も100万人に減り、宝石の希少価値はなくなります。
商品の価格は売り手がつけます。売り手には、市場価値を把握して、価値に見合った価格がつけられるかどうかが問われています。
同じサファイヤで100倍の価格差が生まれる理由
これから紹介する2つのサファイヤリングは、1つ目がカシミール産〔無処理〕2ctサイズで値段は2500万円、2つ目はスリランカ産〔加熱〕1ctサイズで25万円です。なぜ、100倍も価値が違うのでしょうか。
その計算の根拠は、サイズで5倍、産地で10倍、無処理と加熱で2倍の差があり、5×10×2=100倍となるからです。
カシミール産は、ブルーの中でもベルベット(ビロード)のような特別な色合いで、人気があります。そのうえ、現在では産出がないことから、還流による供給です。カシミール産は、スリランカ産の10倍の価値がつけられます。
下のスリランカ産サファイアは、加熱により色を引き出したものです。新しいものが毎年供給され、美しいものは限られていますが入手が可能です。
宝石の価値は無闇についているのではなく、きちんとした理由があることを知ると、価値に見合った宝石を安心して選べるのではないでしょうか。