今回は、「天然ダイヤモンド」「人工ダイヤモンド」を見分ける方法をご紹介します。※本連載は、諏訪貿易株式会社の会長として、世界各国の宝石および宝飾関連業者とのビジネスを行っている諏訪恭一氏の著書、『価値がわかる 宝石図鑑』(ナツメ社)の中から一部を抜粋し、主要な宝石について、その価値や品質、選び方などを紹介します。

磨く前なら、形と肌合いで容易に見分けることが可能

国際鉱物学連合内に設置されている新鉱物・命名・分類委員会は、鉱物を「一定の化学組成」「一定の結晶構造」「地質学的な過程を経てつくられた」ものと定義しています。人工生産物は、地質学的な過程を経てつくられていないので鉱物ではありません。これは宝石においても同じです。

 

自然のものと人工生産物の区別は、磨く前なら、その形と肌合いで容易に見分けることができます。

 

下の写真は肉眼で見る自然のままのソーヤブル(正八面体)、イレギュラー、クリバージの原石と、その表面の肌合いを微分干渉顕微鏡で撮影したものです。ソーヤブルとクリバージは、トライゴン(正八面体の面に見られる三角形の痕跡)がはっきりと確認できます。

 

ダイヤモンド原石とその表面 原石の表面には自然の証である独特の肌合いが見られる(下の写真は微分干渉顕微鏡で見た表面の一部)
ダイヤモンド原石とその表面 原石の表面には自然の証である独特の肌合いが見られる
(下の写真は微分干渉顕微鏡で見た表面の一部)

 

ダイヤモンドは研磨すると、合成との区別に機器が必要となりますが、研磨時にこうした小さな自然の肌を残しておくと、10倍のルーペや微分干渉顕微鏡で、天然であることが確認できます。自然の肌やインクルージョンの内包が、ダイヤモンドの価値を高める日が来るかもしれません。

 

研磨したダイヤモンドのガードル下に残った原石の肌(ナチュラル)。トライゴンが見える
研磨したダイヤモンドのガードル下に残った原石の肌(ナチュラル)。トライゴンが見える

人工的な処理で、低品質のダイヤモンドも美しくなる

ダイヤモンドは比較的、処理されることが少ない宝石ですが、近年では放射線照射や高温高圧で処理して、茶色を無色にしたり、ピンクや青色へ色の改変を人工的に行っているものを見かけます。

 

放射線照射や高温高圧で明るい茶色や黄色、無色のものから青・緑色を作り出し、さらに加熱してオレンジ、黄色などに変えたもの
放射線照射や高温高圧で明るい茶色や黄色、無色のものから青・緑色を作り出し、さらに加熱してオレンジ、黄色などに変えたもの

 

レーザーでダイヤモンドに穴を空けて内部のダークインクルージョンを焼き切ったり、面に到達している“面キズ”に液体鉛を含浸させてキズを目立たないようにすることもあります。

 

面キズに液体鉛を含浸させたダイヤモンド。キズはほとんど見えない
面キズに液体鉛を含浸させたダイヤモンド。キズはほとんど見えない

 

これらは低品質のダイヤモンドを処理して美しくしているため、宝石としての価値は低いものです。

天然と合成の見分けが難しい研磨後のダイヤモンド

1970年にゼネラル・エレクトリック社が宝石品質の合成ダイヤモンド製造(HPHT、高温高圧法)に成功しましたが、市場に出始めたのは2002年頃からです。現在はCVD法(化学気相蒸着法)が主流で数社が販売しています。技術のさらなる進歩が生産量を増やし、需要を十分に満たすので希少性はありません。

 

微分干渉顕微鏡で表面を見ると、自然の肌との違いはもちろんのこと、HPHTとCVDの違いも見てとれます。研磨後のダイヤモンドは天然と合成の見分けがつきませんが、FTIR(フーリエ変換赤外線分光光度計)などの機器で見分けるのは可能です。

 

価値がわかる 宝石図鑑

価値がわかる 宝石図鑑

諏訪 恭一

ナツメ社

宝石とは大自然が生み出し、美しく永く身に着けられて価値を持ち続けるもの。本書では、主要な宝石について、美しいジュエリーの写真とともにその価値や品質、選び方などを丁寧に紹介しました。品質・市場価値の目安を3段階で…

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