「トレーダー」という職業に就ける人間が一握りしかいない理由
「翔さんは何も考えずにひたすら積み立てたり、運任せに買ったり売ったりはしません。分析し、期待値を見極め、常に冷静に、時に大胆に勝負をしかけます。つまり、〝トレーダー〟というひとつの職業です。それこそ、一部の才能のある人しか続けられない道です」
改めて目を凝らすと、翔さんが寝転がって見ていたスマホの画面に映っていたのは何かのチャートだった。そこに動きがあったのか、急に起き上がると6つも画面があるPCの前に座り、素早く操作をはじめていた。
「彼は、いつもこうですよ。優雅な暮らしに見えたかもしれませんが、頭の中はいつだって市場のことを考えています」
とんでもないスピードでマウスとキーボードを操作している翔さんの目は、とてつもなくギラついていた。
勝った人の何倍、何十倍損をした人がいる
ハッと目が覚めると、自室のソファに座っていた。どうやら戻ってきたらしい。我が家のリサイクルショップで4,000円で買ったソファと、翔さんの家のおそらくハイブランドの高級ソファを比べて溜め息をついた。
すぐ横で毛づくろいをはじめた小鉄に語りかける。
「SNSを見てるとさ、こうやって一発ドカンと財を成してる人って結構いる気がするけれど、あれはごくわずかな生き残りの人ってことなのかな?」
「おっしゃる通りです。詐欺にはめようとして偽りの投稿をする人も多いですが、もちろん本当にうまくいった人もいるでしょう。ただその何十倍、何百倍も損している人がいます。自分は勝てると思うなら参入してもいいと思います」
「いや普通に無理だ……」
僕は、先程の翔さんのギラついた目を思い出していた。
「こういった売買の恐ろしい点は、〝何もわかってない素人でも、短期的には勝てることがある〟という点です。結局上がるか下がるかという話なので、何も考えずにコインを投げて決めたとしても、当たるときは当たります。
自分で考えた適当な理論、インフルエンサーから言われた謎の投資手法、そんなのでも、儲かるときは儲かってしまうのです。これが、一番恐ろしいところです」
「勝てるならいいんじゃないの?」
「勝ち続けられないなら、意味がありません。むしろ中途半端に勝てるからこそ、やめられません。実際、常に期待値のある行動をとり続けられる人であれば、専業トレーダーとしてうまくやれるでしょう」
SNSで見かけるカリスマトレーダーも、簡単にお金を稼いでいるように見えて、実際はとんでもない苦労を重ねているのだろう。
株式会社HF 代表取締役
ヒトデ
※本記事は『1万回生きたネコが教えてくれた 幸せなFIRE』(徳間書店)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。