(画像はイメージです/PIXTA)

在宅診療を受ける患者には2種類に大別されます。自宅に住んでいる患者と、高齢者施設に入所している患者です。昨今は少子高齢化により高齢者施設の数が増しているため、メインターゲットに据えるクリニックの数も増えているようです。しかし、効率の観点だけでメインターゲットを選ぶことは早計です。在宅診療医の野末睦氏が永続性の高い、在宅診療クリニックの経営について解説します。

効率の観点で「施設」をメインターゲットに据えるのは早計

先述のとおり訪問診療クリニックを開業する際に「個人宅と高齢者施設、どちらを主なターゲットにするか」はとても重要です。

 

まず、現在は少子高齢化も理由の1つとして、高齢者施設は増加しているため、それに伴い施設をメインに診るクリニック需要も増加傾向にあります。

 

また、診察のスピードと回転率が個人宅と施設では異なります。1人あたりの診察時間が個人宅ではおよそ15分であるのに対して、施設では2~5分です。個人宅で1人を診る間に施設では5~7名診ることができます。さらに、同じ施設内に入居しているため、患者間の移動時間を短縮できます。

 

こうした、昨今の需要の高まりや回転率の高さから「施設を主に診るクリニックは、効率的に稼げる」といった印象が広まったように思います。私としては「大きな利益が期待できる」という理由のみで「施設をメインターゲットに」と考えるのは早計と言わざるを得ません。なぜなら、利益重視の経営スタイルでは変わりゆく時代や、法制度の改正等に対応できるとは限らないからです。

大人数を見る場合の診療報酬は大幅に減少

現在は、厚生労働省が令和4年度の診療報酬改定をきっかけに「質の高い訪問診療・訪問看護の確保」という方針を打ち出しています。施設入居者への診療に対する診療報酬は、どんどん減少しており、特に、大人数を診る場合の点数は大幅に下がりました。

 

そうした背景から、「ある程度お金が儲かるから」という理由で施設中心に診療していた訪問クリニックの大幅な撤退が想定されます。そうなると、その撤退したクリニックが担当していた施設は一体誰が診るのかという話になります。

 

現在私たちのクリニックは優先的に受け入れるようにしていますが、マンパワーが限られているというのが現実です。世の中は刻一刻と変わりゆくので、ニーズの高さや効率性を重視してスタートしたクリニックは、いずれ淘汰されます。経営にはどのような理念でそれを選択するのか、どういったポリシーをもつのか、軸をもつことが重要です。

 

診察の手を抜いて、多くの患者さんを受けもつ――というような考えの人は、訪問診療への参入をお控えください。

 

※参考:令和4年度診療報酬改定「質の高い在宅医療・訪問看護の確保」|厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001013024.pdf

 

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