2020年代に入って以降、最低賃金の上昇が顕著になり、改定されるたびに大きな話題を呼んでいます。たとえば、厚生労働省(地域別最低賃金に関するデータ(時間額))によると、20年前の2004年は710円でした。昨今、インフレが進む日本ですが、このことが示す真の意味とは……? 我妻佳祐氏の著書『金融地獄を生き抜け 世界一簡単なお金リテラシーこれだけ』より、解説していきます。

物価上昇が経済成長に必要なワケ

こう思っている人もいるのではないでしょうか。

 

「インフレで銀行預金が目減りしてしまうのなら、たしかに投資をしたほうがいいかもしれない。でも、だったらインフレを止める政策を行ってもらったほうが安心だ。物価が上がらず、預金も目減りしないのだから、生活が楽になる」

 

たしかに、物価の激しい上昇は私たちの生活を苦しめます。あまりにも極端なインフレを防ぐための施策が求められるのは当然でしょう。しかし一方で、経済が成長するときには適度なインフレを伴うのもたしかなことです。逆に、物価が下がっていくデフレは、経済が落ち込んでいることのあらわれ。

 

この30年間、日本は物価がどんどん下がりましたが、私たちの暮らしは楽になっていません。経済成長率が低下して、収入が増えなかったからです。そのあいだ、アメリカや中国など経済が好調だった国々は高いインフレ率を示しました。いま海外旅行をすると、どこへ行っても物価の高さに驚きます。

 

しかし経済成長によって豊かな社会にしようと思ったら、「物価の安い日本は暮らしやすい」などといっている場合ではないでしょう。ある程度のインフレは受け入れなければなりません。社会全体が豊かさを享受するためには、いわば「ジリ貧」状態のデフレから脱却して、インフレに負けないぐらい強い経済を目指すべきです。

 

モノの値段だけなく、ヒトの値段も上がるインフレ

インフレは「若者にやさしく高齢者に厳しい」経済状態だともいえます。

 

仕事ができなくなった高齢者は、決まった年金と、貯蓄の取り崩しで生活していく必要がありますが、そのどちらもインフレで目減りしていくので、高齢者にとってはツラい経済状態です。逆に、体を資本に労働で稼げる若者にとっては、たとえ手元の貯蓄は少なくても、モノやサービスが売れて、人手不足になって雇用条件もよくなりやすいインフレのほうがありがたいはずです。

 

実際、少子化もあいまって労働市場は売り手市場といわれるようになっています。20年前、私が大学生のころは時給800円でもバイトが集まりましたが、今は1,000円でもなかなか集まらない時代です。

 

高度経済成長期の失業率は1%程度で、会社が潰れてもすぐに仕事が見つかるような社会状況でした。失業率はバブル崩壊後、最高で5.6%にまで上昇したものの、最近は2.5%程度で推移しています。

 

インフレではモノの値段も上がりますがヒトの値段も上がります。つまり、仕事を見つけやすくなったり給料が上がりやすくなったりするということです。デフレではたしかに物価は上がりませんが、賃金はそれ以上に上がらないので、実質的には給料が下がるのと同じです。

 

1995年までは物価よりも賃金のほうが上がっていました。それ以降は物価がほぼ上がらないか下がっている「デフレ状態」ですが、賃金の上昇率はそれ以下なので、実質的には賃金が下がっているのと同じことです([図表1]参照)。

 

出所:『金融地獄を生き抜け 世界一簡単なお金リテラシーこれだけ』(幻冬舎新書)
[図表]賃金および物価上昇率の推移 出所:『金融地獄を生き抜け 世界一簡単なお金リテラシーこれだけ』(幻冬舎新書)

 

なお、日本では最近インフレに転換しつつありますが、賃金がインフレ率ほど上がっていないので、やはり物価に対する賃金(実質賃金といいます)は下がっています。

 

ただ、図表を見てもわかるようにデフレに戻ってもこれは解決しません。デフレに慣れきった経済を、諸外国のようにインフレが通常の経済だという感覚に戻していくことがなによりも必要でしょう。

 

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※ 本連載は、我妻佳祐氏の著書の『金融地獄を生き抜け 世界一簡単なお金リテラシーこれだけ』(幻冬舎新書)の一部を抜粋・再編集したものです

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