遺言書がないことで相続が “争続”に発展…遺言書があればお世話になった家政婦さんにも財産は渡せる。遺言書の正しい書き方と、相続人が最低限保障される「遺留分」を知っておこう【相続専門税理士が解説】

遺言書がないことで相続が “争続”に発展…遺言書があればお世話になった家政婦さんにも財産は渡せる。遺言書の正しい書き方と、相続人が最低限保障される「遺留分」を知っておこう【相続専門税理士が解説】
(画像はイメージです/PIXTA)

相続が “争続”に発展する理由のひとつに遺言書がないことがあげられます。また、遺言書は正しい形式で作成したものでないと無効となってしまいます。ここでは、正しい遺言書の書き方に加え、相続人が最低限もらえる「遺留分」についても見ていきます。相続専門税理士の岸田康雄氏がやさしく解説していきます。

遺言は、死後に遺族へ行う意思表示

「遺言」とは、人の死亡後の法律関係を定める意思表示のことです。遺言者が死亡したときに、その効力が発生します。

 

満15歳以上で正常な意思能力がある人であれば、遺言書を書くことができます。

 

遺言書では、特定の相続人の相続分を多くしたり、財産ごとにだれに相続させるのかを指定したりすることができます。また、お世話になった家政婦さんなど、法定相続人以外の人に財産を渡すこともできます。

 

ただし、遺言書の作成方法は法律で決められています。それに従わなければ、その遺言の内容が無効となってしまいます。

 

一般的に遺言書には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があります。

 

①【自筆証書遺言】遺言者が自筆して押印する

自筆証書遺言は、遺言者が全文、日付および氏名を自筆して押印する方法のことをいいます。日付、氏名を必ず書くことが必要で、書いていないものは無効となります。

 

証人や立会人は不要です。

 

遺言者が自筆することが必要とされ、パソコンや録音での作成は認められていませんが、パソコンで作成した財産目録や銀行通帳のコピー、不動産の登記簿謄本を添付することは認められています。

 

ただし、自筆証書遺言は、それを見つけた人は自ら開封することはできず、家庭裁判所に行って、相続人の立会いのもとで開封しなければなりません。この手続きのことを「検認」といいます。

 

これは、遺言書が書き換えられることを防止するために実施するものです。

 

なお、遺言者が法務局に預けておいた自筆証書遺言については、書き換えられるおそれがないため、検認は不要となります。

 

②【公正証書遺言】口頭で遺言を伝える

公正証書遺言は、遺言の内容を口頭で伝えて作成する方法のことをいいます。

 

下記のように、手順が明確に決まっています。

 

2人以上の証人が立会う

遺言者が公証人に遺言の内容を口述する

公証人がこれを筆記する

証人に内容を確認したあと、各自署名押印する

公証人が署名押印する

 

 

作成した遺言書の原本は公証役場に保管されることになります。

 

立会う証人について制限があり、推定相続人とその配偶者、受遺者とその配偶者など、遺言の内容について利害関係のある人は、証人になることができません。

 

なお、公正証書遺言には検認は必要ありません。

 

③【秘密証書遺言】遺言者と公証人が署名する

秘密証書遺言は、遺言者が自ら遺言書を作成して封印し、公証人の前で、「これが自分の遺言書である」と伝えたうえで、公証人と2人以上の証人が署名押印する方式です。

 

秘密証書遺言は検認が必要です。

遺言の効力は? 撤回できる?

遺言は、遺言者が死亡した時点から、その効力が発生します。したがって、遺贈された遺産は、遺産分割の対象にはなりません。

 

また、遺言はいつでも何度でも撤回することができます。

 

遺言書を書いたあとに、遺言者が財産を処分してしまったときは、遺言者が所有する財産と遺言の記載事項が異なることになってしまいますが、その部分について遺言が撤回されたとみなされます。

 

また、複数の遺言書が存在する場合には、最も日付の新しい遺言書が有効とされます。古い遺言書のなかの記載事項のうち、新しい遺言書と異なる部分は撤回されたものとみなされます。

「遺留分」…遺産の取り分の最小値 

次に相続人が最低限保障される遺産の取り分である「遺留分」について見ていきます。

 

たとえば、被相続人が見知らぬ他人に遺産のすべてを渡すと遺言書に書いてあったとしても、相続人は最低限度の取り分である遺留分だけは相続することができます。

 

このような極端な遺言がおこなわれた場合であっても、その遺言が当然に無効になるわけではありません。

 

相続人は、遺留分を下回った部分について現金の支払いを求めることができます。これを遺留分の侵害額請求といいます。

 

ただし、侵害額請求をおこなうべき遺贈があったことを知ったときから1年過ぎて請求していなければ、その後は請求できなくなります。

 

また、遺贈があったことを知らなくても、相続開始日から10年を過ぎてしまえば、侵害額請求をおこなうことができなくなります。

 

◆遺留分権利者は「配偶者・子・代襲相続人・親」 

遺留分は、配偶者、子どもまたはその代襲相続人、親に認められています。これらの人を遺留分権利者といいます。兄弟姉妹には遺留分は認められていません。

 

遺留分は、相続開始日以降であれば自由に放棄することができますが、相続開始前に放棄する場合には、家庭裁判所の許可を受けなければなりません。

 

◆遺留分の割合 

遺留分の割合は、配偶者、子どもまたはその代襲相続人の場合、法定相続分の2分の1です。親のみの場合は、法定相続分の3分の1です。

 

たとえば、相続人が配偶者と子ども2人の場合、配偶者の遺留分は、法定相続分である2分の1の2分の1、つまり、4分の1となります。子どもたちの遺留分は、法定相続分である4分の1の2分の1、つまり、8分の1となります。

 

 

岸田 康雄
公認会計士/税理士/行政書士/宅地建物取引士/中小企業診断士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)

 

★遺言書を作成する方法はこちらをチェック

【遺言書】自筆証書遺言・公正証書遺言など遺言書の書き方をわかりやすく解説【FP3級】

 

★相続財産の遺留分ついてはこちらをチェック

【相続】遺言書と遺留分、その時効と効果、遺留分が侵害された場合の請求方法を解説

 

 

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