全く知らない「いとこ」から、突然の連絡
筆者の事務所で、土地の相続について相談がありました。
相談者の大山さんは40代女性で、2人姉妹の長女です。幼い頃に母親を亡くしています。
祖父母も大山さんが生まれる前に亡くなっていたために、これまで母方の親戚付き合いは皆無でした。しかし大山さんと妹のもとに、母の弟の長男、つまり「いとこ」にあたるという人から突然連絡があったそうです。
「相続書類への署名と押印をしてほしい」との依頼で、いとこだという方の話によると、母の祖母、つまり大山さんにとっての曾祖母名義の土地があるそうで、その土地を相続するための手続きを進めたいようです。
大山さんは、できるだけ面倒ごとにならないように、穏便にすませたいと考えており、いとこの希望通り、相続放棄しようと考えているものの、問題がないかどうか、アドバイスがほしいとのことでした。
おそらく大山さんのいとこは、自力で相続人全員の戸籍謄本をすべて集め、戸籍の附票から大山さんと妹さんの住所を調べたのでしょう。そして、いとこ1人で土地相続する旨を記載した遺産分割協議書にそれぞれ署名と押印をするよう連絡してきたものと思われます。
大山さんの元には、その後、司法書士の事務所から相続関連の書類も送られてきており、それも持参していました。
筆者が書類を確認すると、土地は5坪ほどしかなく、添付されていた写真を見ても、住宅の建築はおろか、駐車場にも使えそうにない、狭すぎてとても役には立たないと思われる形状でした。
ところが土地の住所を確認したところ、港区麻布十番駅の駅から徒歩1分の立地です。実勢価格は坪単価1,000万円程度。5坪でも5,000万円ほどの価格になるのではないかと思われました。
面倒ごとには関わり合いになりたくないといっていた大山さんですが、筆者が出した5,000万円という数字を聞くと、考え込んでしまいました。
いとこは土地をひとり占めしたいが…
「先生、やっぱり私も、相続分相当の代金を分けてもらいたいです」
詳しく遺産分割協議の内容を確認すると、曾祖母名義の土地は相続登記が行われておらず、今回、いとこはその登記を行おうとしているようでした。
書類と一緒に送られてきた家系図を確認したところ、大山さんの母親が土地の名義人である曾祖母の孫のうちの1人で、孫世代の4人は全員がすでに他界していました。そのため、曾孫世代が代襲相続人となり、大山さんとその妹、いとこ、そのほか5人の合計8人が相続人になっています。
いとこは自分1人で土地を取得しようとしていますが、相続不動産を登記するとなると、相続人8人全員が遺産分割協議書に署名と押印する必要があります。
いとこが提示する内容に納得がいかない場合は、署名と押印を拒否すれば、いとこの希望は実現しません。しかし、それでは単なる問題の先送りにしかならず、解決には至りません。
しかし、大山さんがいうように、ほぼ他人ともいえる相続人で集まり、遺産分割協議の話し合いのテーブルに着くというのは、あまり現実的な方法ではありません。
面倒な交渉を回避する「相続分の譲渡」というテクニック
遺産分割の現実的な落とし所は、土地の売却と、代金の8人での均等分割だといえます。しかし、大山さんが話を聞いたところによると、いとこはすでに不動産会社と交渉を進めているらしく、さっさと書類に署名捺印して相続放棄してほしいという焦りが見えるといいます。
ほかの相続人がどのように動くかはわかりませんが、明確なのは、相続放棄をしてしまっては、相続分のお金を受け取ることはできないということです。また、もしこれから話し合いをして売却・代金を等分することで合意できても、実際の売却まで何年もかかる可能性があります。
そこで、筆者が大山さんにおすすめしたのが、いとこに有償で「相続分の譲渡」をおこなうという方法です。
相続分の譲渡とは、相続人の地位と相続分を他人に譲渡することで、実質的に相続放棄と同じことになります。これは譲受人と譲渡人の間の合意で成立するため、ほかの相続人の同意は必要としません。
今回のケースでは、大山さんの法定相続分8分の1をいとこに譲渡する、ということになります。
相続分の譲渡は、有償の場合と無償の場合の両方があります。有償で譲渡する場合、仮に土地を5,000万円と評価するなら、その8分の1となる625万円で相続分を譲渡すればよいでしょう。
相続登記をすませていないと、孫や曾孫世代にツケが回ってくることになります。しかしながら、2024年4月からは、相続後3年以内に相続登記をすることが法律で義務付けられるため、このようなケースは減っていくことになるでしょう。
岸田 康雄
公認会計士/税理士/行政書士/宅地建物取引士/中小企業診断士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)
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