非常に小さい確率は、実際より大きく感じやすい
眼の錯覚は有名ですが、脳も錯覚します。前回の拙稿『ナゼ?「うまくいったら高額報酬を保証」より「ヘマしたら高額報酬から減額」の契約のほうが〈高い成果〉を見込めるワケ』では「一度手に入れたものは手放したくない」という錯覚について記しましたが、今回は「非常に小さな確率は実際よりも大きく感じる」という錯覚について見ていきましょう。
実際の確率と、人々が感じる確率の関係は下の図表のようになっているといいます。人間は、非常に小さな確率は実際よりも大きく感じるようにできているのだそうです。飛行機事故の確率は非常に低いですが、飛行機に乗るのは怖いと思っている人も多いようですし、宝くじで高額賞金を得る確率は非常に低いですが、当たりそうな気がして買う人も多いですね。
人類の進化の過程で、そういう錯覚をする個体のほうが生き延びやすかった、ということなのでしょうから、錯覚をすること自体は恥ずかしいことではなく、錯覚しない人より進化しているのだと誇りに思ってよいでしょう(笑)。
「危険な仕事があります。何円払えば引き受けてくれますか?」
ここで読者にいくつか質問をします。
結構高い金額を頭に思い浮かべた人が多いでしょう。
50%の確率が50.0001%に上がるだけなら誤差の範囲だから、報酬がそれほど高くなくても引き受けよう、という人も多いでしょう。
本稿とは直接関係ありませんが、やはり脳の錯覚を試す質問です。
上記の4つの質問は、いずれも「あなたの眼の100万分の1の値段は何円ですか」と聞いているのですが、それぞれ違う答えを思い浮かべた人も多いのではないでしょうか。
宝くじの期待値は、明確に「マイナス」
「宝くじを買う行為は合理的か」ということを考える際に重要なのは「期待値がプラスか否か」ということです。「期待値」というのは、当たる確率と賞金金額を掛け合わせた値で、これが買値より大きければ「確率的には儲かる」取引ですし、小さければ「確率的には損をする」取引だということになります。
宝くじの当選確率は調べればわかりますが、そんなことをする必要はありません。宝くじを印刷したり販売したりするコスト等は、買った客が払った金から出ているわけで、それを差し引いた金額が当選者に支払われる、ということを考えれば、確率的には損な取引だ、ということが簡単に理解できるからです。
したがって、経済的利益を追求するならば、宝くじは買うべきではありません。しかし、経済的利益のために人生があるわけではありません。
「まったく無意味な行為」をするのも人生
五輪やW杯などで日本チームを応援する人は多いですね。それ以外でも、応援しているスポーツチームなどがある人は多いでしょう。それは「経済的利益」とは無縁の行為ですね。加えて、テレビの前で応援したから選手が張り切る、ということはないでしょうから、応援それ自体がまったく無意味な行為だといってもよいかもしれません。
しかし、応援しながら見ると楽しいですし、勝ったときの喜びや負けたときのガッカリさえも、人生の彩りになるでしょう。宝くじも同じです。「当たれ!」と念じながら抽選の日を待つワクワク感が、わずか数百円で得られるのですから、安いものだと考えることもできるでしょう。
しかも、人間は上記のように錯覚しますから「当たるかもしれない。当たったらなにを買おうかな」などと(合理的でないけれどもワクワクする)妄想に浸ることができるわけです。錯覚がなかったら「どうせ当たらないさ」と考えてしまってワクワクできないわけですから、錯覚に感謝ですね(笑)。
保険もいわゆる「損な取引」ではあるが…
保険も宝くじと同様に、確率的には損な取引です。しかし、たとえば自動車を運転するときには絶対に必要です。万が一大事故を引き起こしてしまったら大変ですから。
実際に必要なだけではありません。「大事故を引き起こしてしまったらどうしよう」という心配を和らげてくれる役割も重要です。しかも、実際に大事故が起きる確率は非常に小さいのに、それが大きく感じられるとしたら、それを和らげてくれる効果は意外と大きいかもしれません。
ただ、保険のなかには加入する必要のないものも多いので、そのあたりの見極めは必要となるでしょう。たとえば退職金を受け取った元サラリーマンは生命保険の必要はありません。彼(女)が他界しても、配偶者は退職金を相続できるので、(悲しむでしょうが)経済的には困らないからです。
今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。
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塚崎 公義
経済評論家
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