エンジニアのモチベーションを引き出すという課題
SES企業のエンジニアには、スキルを身につけることに喜びを感じるタイプが多いと感じています。技術力を高めること自体に価値を見いだせる人なら、ある程度はモチベーションを保てるかもしれません。
しかしそれ以上のやりがいを求めようとすると、どうしても壁にぶつかってしまいます。自分の仕事が誰かの役に立っていると感じられなければ、ストレスを抱え込んでしまうからです。
プロジェクトの規模が大きくなるほど、この問題は深刻になります。レイヤーが何重にも重なれば、最前線のエンジニアには全体像が見えなくなってしまいます。上流工程の担当者なら、まだしもシステム開発に貢献しているという実感がもてるかもしれません。しかし、末端のエンジニアにそれを求めるのは酷というものです。
エンジニアの低モチベーションは、システムの品質にも悪影響を及ぼします。意欲を削がれたエンジニアに、高品質のシステムを作ることなど期待できないからです。手を抜くわけではないのですが、どこかやる気のない作業になりがちです。結果できあがるシステムは、どうしても魂のこもったものにはなり得ません。
これらの問題を解決するには、情報共有の仕組みづくりと人材育成への注力が不可欠だといえます。SIerには、下請け企業の実態を把握し、適切な管理をおこなうことが求められます。SES企業も、エンジニアのモチベーションを高める工夫が必要です。
例えば、開発したシステムを使って喜んでいるユーザーの声を映像で届けるのはどうでしょうか。「この機能は私が作った」と実感できれば、仕事への誇りも違ってくるはずです。
せめてプロジェクトの完成時には、例えば造船所の竣工式のような、全体像を見渡せる機会を設けたいものです。上流工程の内容を共有し、エンドユーザーの反応を見せる。細分化された作業に従事するエンジニアにも、達成感を味わってもらえるような働きかけをしていければと思います。
マネジメント層には、常に現場の声に耳を傾ける姿勢が求められます。モチベーションの維持は、それぞれのエンジニアによって異なるからです。スキルアップの機会を増やすことで満足する者もいれば、社会貢献意識をもてるプロジェクトを望む者もいるでしょう。個々人の思いを汲み取ることからしか、組織のパフォーマンス向上は望めません。
やりがいの問題は、いちエンジニアやSES企業だけに帰するものではありません。抜本的な解決のためには、業界全体で構造的な問題に取り組む必要があります。
理想と現実のギャップを埋めることは容易ではありません。だからこそ、地道な取り組みの積み重ねが求められるのです。若者の夢を決して踏みにじることなく、一人ひとりの可能性を見守り、導いていく。IT業界に身をおく私たちには、その責任があります。
田中 宏明
株式会社ソフネット代表取締役