〈多重下請け構造〉が作り出す“時代遅れ”のシステム…真に価値のあるシステムを提供するために、IT業界がいま向き合うべき「課題」

〈多重下請け構造〉が作り出す“時代遅れ”のシステム…真に価値のあるシステムを提供するために、IT業界がいま向き合うべき「課題」
(画像はイメージです/PIXTA)

システム開発者にとって、商品であるシステムに不具合があるほうが次の仕事につながるため、ビジネスとしては「得」。しかしこの仕組みが、システムの品質向上を追求する動きを阻害しています。田中宏明氏の著書『SEの悲鳴 ITエンジニアを食い物にする多重下請け構造の闇』(幻冬舎メディアコンサルティング)より、IT業界に求められるシステム開発のあり方について、詳しくみていきましょう。

業界一丸となった取り組みの必要性

多重下請け構造の下、時代遅れで使いづらいシステムは、このようにして生まれます。この問題を解決するには、日本のシステム開発のあり方そのものを見直す必要があります。

 

品質よりもコストを優先する姿勢、納期至上主義による品質の軽視、不具合を放置するビジネスモデル。こうした問題に真摯に向き合わなければ、日本のIT業界の未来は危ういと思います。

 

コストダウンと品質向上の両立を図るには、発注のあり方から考え直さなければなりません。ぎりぎりの工数でプロジェクトを回すのではなく、ゆとりをもった納期設定を心がける、テスト工程を削るのではなく、納得のいくまで検証を重ねられる環境を整備するといったことです。

 

システム開発会社側には、自社の利益だけでなく、業界全体の発展を見据えた行動が求められます。SIerとSES企業が対等なパートナーとして、ともにエンドユーザーの問題解決に取り組む姿勢をもたねばなりません。

 

エンドユーザーの信頼を得られるシステムを提供することこそが、システムを作る者の使命です。エンドユーザーに真に価値のあるシステムを提供するためには、納期至上主義から脱却し、品質を重視する文化を業界全体に根付かせることが不可欠です。そのためには、多重下請け構造の改善と、開発プロセスの見直しが急務です。

 

エンドユーザー側のITリテラシーの向上と内製化も必要です。自社のビジネスにシステムがどう役立つのか、現場の意見や問題点をしっかりと把握する。そうした能動的な姿勢なくして、真に価値のあるシステムを構築することはできません。

 

システム開発の現場を良い環境へと変えていくこと、それは業界の信頼を高め、日本のIT競争力を底上げすることにもつながるはずです。長年にわたって積み重ねられてきた多重下請け構造という歪みを正すことは、容易ではありません。しかしシステム開発は、関わるすべての人々が一体となって取り組むべき共同作業です。

 

エンドユーザー、SIer、そしてSES企業。三者が知恵を結集し、より良いシステムを生み出す。それこそが、日本のIT業界が目指すべき姿です。
 

 

田中 宏明
株式会社ソフネット代表取締役

※本連載は、田中宏明氏の著書『SEの悲鳴 ITエンジニアを食い物にする多重下請け構造の闇』(幻冬舎メディアコンサルティング)より抜粋したものです。

SEの悲鳴 ITエンジニアを食い物にする多重下請け構造の闇

SEの悲鳴 ITエンジニアを食い物にする多重下請け構造の闇

田中 宏明

幻冬舎メディアコンサルティング

政府・自治体といった行政のIT化の遅れや、メガバンクのシステム障害、IT人材の不足など、わが国のIT分野における国際競争力の低下は深刻さを増しています。政府・民間によるIT産業への投資不足、大企業を筆頭にした保守的な企…

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録
会員向けセミナーの一覧