夫の死後、電気・ガスまで止められた“孤独な81歳妻”に追い打ちをかけた「税務調査に伺います」の知らせ…不安にかられるも一転、「ありがとう」と感謝したワケ【税理士が解説】

夫の死後、電気・ガスまで止められた“孤独な81歳妻”に追い打ちをかけた「税務調査に伺います」の知らせ…不安にかられるも一転、「ありがとう」と感謝したワケ【税理士が解説】

近年、子どもを持たない夫婦が増加しています。また、高齢化が進む中で、身近に頼れる親族がいないという状況も一般的になりつつあります。そんな中、唯一頼りにしていた配偶者が亡くなると、遺された方が生活面で大きな困難に直面するケースが増加することが予想されます。このようなリスクに備えるためには、どのような対策が必要なのでしょうか。辻・本郷税理士法人の井口麻里子税理士が、夫を亡くした本多澄江さん(仮名・81歳)の事例をもとに、詳しく解説します。

妻も知らない財産への税務調査が来た理由

ところで、澄江さんが何も知らせていないのに、なぜ税務署が「相続税の申告が必要なのではありませんか?」と調査にきたのでしょうか。 

 

実は、死亡届を区役所へ提出すると、自動的に税務署に通知がいくようになっています。その通知を受けて、税務署はあらゆる情報を収集し、亡くなった人の財産額を想定します。

 

国税庁は国税総合管理(KSK)システムにより、国民1人ひとりの所得や相続した財産の状況などを一元的に管理しています。つまり、個々人がどれだけの財産を持っているかは、おおよそ把握されているのです。

 

その想定財産額が基礎控除額を上回っているのに相続税の申告がない場合は、無申告案件として調査に入る可能性が高まります。また、相続税の申告をした場合でも、申告額と税務当局の想定財産額とに大きな隔たりがあれば、タンス預金を疑われ調査が入る可能性があります。

 

無申告案件は、税に対する公平性を著しく損なうものとして、税務当局としてはその把握に積極的に取り組んでいます。令和4事務年度においては、実に705件の無申告案件の実地調査が行われています。

 

澄江さんの場合は、税務調査が来てくれたおかげで、これまで自分1人では滞っていた様々な手続きを済ませることができ、また、相続税やペナルティは払うことになりましたが、それを払っても十分なだけの財産を得ることになりました。

 

これからの日本では、こうした澄江さんのような高齢者が少なからず発生することが予想されます。大切な人にこのような思いをさせないために、どのような備えをしたらよいのでしょうか?

 

まずは、きちんと遺言を書いて、遺言のなかで遺言執行者を指定しておくことをお勧めします。そして、「もし自分が亡くなったら遺言執行者に電話を1本かけること」と配偶者によく言い聞かせ、分かりやすい場所に連絡先を貼っておくとよいかもしれません。

 

高齢化と認知症割合の増加が進むなか、澄江さんのケースは他人ごとではありません。ぜひ、皆さんも自分ごととして取り組んでみてください。

 

 

井口 麻里子
辻・本郷税理士法人
税理士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士

 

 

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