早く年金を受け取っていれば…
Aさんが75歳になるまでのあいだに、健康状態は悪化しました。ある程度は覚悟していたものの、加齢に加え病気を患ってしまうと治療費や介護費用が嵩んでしまいます。勤めていたころは会社の保険が適用されましたが、いまとなってはそれもありません。個人で加入している最低限の保険からしか給付がされないなか、苦戦を強いられる10年となってしまいました。
年金を先に受給していれば、元気なうちに家族と趣味や旅行を楽しめたかもしれない。そう思わずにはいられませんでした。
加給年金の落とし穴
「えっ……」75歳になったAさんは困惑します。
75歳になって年金を受け取りはじめ、加給年金の存在に気がついたのです。加給年金とは、厚生年金の被保険者が65歳に達した際、配偶者や子どもなどを扶養している場合に、老齢厚生年金に追加するかたちで支給される年金のことです。
Aさんの妻は現在55歳、2人の子どもがいます。年の離れた妻子を持つ場合、加給年金は多額に上ります。具体的な計算は下記のとおりです。
配偶者に対する加給年金
加給年金は、配者が65歳未満である期間に支給されます。Aさんの妻は現在55歳なので、65歳になるまでの10年間、加給年金を受け取る権利があります。
配偶者に対する加給年金の年間額は24万4,000円です。受け取りの総額は10年間で224万円です。
子どもに対する加給年金
加給年金は、子どもが18歳未満である期間に支給されます。Aさんの子どもは現在15歳と
16歳なので、それぞれ3年間(15歳の子ども)と2年間(16歳の子ども)の加給年金を受け取る権利があります。
子ども1人あたりに対する加給年金は年間22万4,000です。加給年金の総額は、336万円にものぼります。
・1人目の子どもに対する加給年金:22万4,000×3=67万2,000
・2人目の子どもに対する加給年金:22万4,000×2=44万8,000
一方で、増えた年金は年間で151万2,000円です。3年受給すればキャッシュフロー上は得ではありますが、Aさんにとって65歳から75歳までの元気で子どもたちのためにもつかってあげられる期間に受け取れる336万円には、額面以上の魅力がありました。
その事実にあとから気づいてしまったのです。
税金上の注意
とりわけ75歳以上の方にとっては、税制面においても注意が必要です。後期高齢者医療制度では所得が145万円以上の場合、医療費の自己負担割合が30%に上がるからです。
さらに高額療養費制度の上限額まで、1.4倍程度まで上がってしまいます。せっかく繰下げ受給でもらえる年金額が増えても、医療費が余分にかかるようでは元の木阿弥です。
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