重点政策の一つとして位置付けられた「一帯一路」構想
シルクロードは、中国、アジア、欧州、アフリカを結ぶ古代の商業貿易路線で、その交通手段によって、陸路と海路に区別されてきた。陸路は、前漢の都、長安(現在の西安)を始点として、新彊、パミール高原を経て、中央アジア、欧州、北アフリカに向かうもの、海路は中国東南沿海部を始点として、南アジアを経て、アフリカ、欧州に向かった。
陸上のシルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロードを合わせたいわゆる“一帯一路”構想(以下、「構想」)は、2014年、15年の全人代政府工作報告で重点政策の一つとして位置付けられた。
また、中国政府は構想を15年3月ボアオフォーラムの主要議題とし、さらに同フォーラムに合わせて、国家発展改革委、外交部、商務部が共同で構想の「愿景与行動」文書(以下、「行動文書」)を公表、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の提唱と相まって、対外的に新たな巨大経済秩序の構築を主導する姿勢を鮮明にしている。
中国が目指す、周辺諸国とのコネクティビティ強化
陸上のシルクロード経済ベルトは2013年9月、習主席が中央アジア4か国を訪問した際に、カザフスタンのアスタナで初めて提唱した。古来、中国がシルクロードの起点で、中央アジア諸国がその重要な沿線国であることを踏まえ、政策、輸送インフラ、貿易・投資、金融、および文化(民心)の5つの分野での協力強化を呼びかけた。
海上については2013年10月、李克強首相がASEAN+中国のサミットの場で、また習主席がインドネシア国会における演説で言及した。「中国とASEANは利益を分かち合う運命共同体」として、21世紀の海上シルクロードを構築する必要があるとしたもので、具体的な内容は、港湾等輸送インフラ整備での協力等、陸上のそれと基本的に大差はない。行動文書でも、改めて協力重点分野として5つの分野を明記、また構想は、沿線に位置する国・地域を「運命共同体」であると同時に、「利益共同体」「責任共同体」として構築するものとしている。
近年、中国は周辺諸国とのコネクティビティ(連結性)を強化するため、様々な形で“回廊外交”を進めている。中国は改革開放の過程で、国内の交通インフラ整備を優先し(交通回廊)、ヒトやモノの移動を促して、経済発展に繋げた(経済回廊)経験を自負しており、この経験を国外にも適用していこうとするものだ。構想はこの回廊外交の典型で(復旦大学国際問題研究院副院長、2014年5月14日付人民網)、陸路については中央アジア、海上についてはASEANを中核にしてスタートさせようとしたものと位置付けられる。
【主要参考文献】
‘推动共建丝绸之路经济带和21世纪海上丝绸之路的愿景与行动’国家发展改革委,外交部,商务部,2015年3月
‘China’s ‘Marshall’ Plan is much more’ Dingding Chen, The Diplomat, Nov. 2014
『ウクライナ情勢と中国』金森俊樹、外国為替貿易研究会、国際金融2014年6月
‘Back on the Silk Road: China’s Version of a Rebalance to Asia’ Xie Tao, Global Asia, Spr. 2014
‘The Maritime Silk Road Vs. The String of Pearls’ Shannon Tiezzi, The Diplomat, Feb. 2014
‘China’s New Silk Road Diplomacy’ Justyna Szczudlik-Tatar, Policy Paper, Polish Institute of International Affairs, Dec. 2013
新华社,人民网,21世纪经济报道,第一财经日报等、中国各誌