中国の重点政策の一つである「一帯一路」構想を解説している本連載。第7回は、この構想を関係各国はどう見ているのか、外部からの反応を中心に見ていきます。

沿線の国との貿易を2.5兆ドル以上に拡大へ

2015年1月、海南で開催された中国新聞社主催「‘一帯一路’世界華文伝媒経済論壇」で、中国国務院副主任は、すでに50以上の国が参加に関心を寄せているとするとともに、「一帯一路」のルートに沿って44億人(世界の63%)と年間22兆ドル規模の経済活動(同30%)を有する新興・途上国経済があり、構想は決して脚のない‘空中楼閣’ではないと発言している(2015年1月24日付中国政府網)。

 

また3月ボアオフォーラムで、習主席は、構想が約10年を目途に、中国と沿線の国・地域との年貿易額を2.5兆ドル以上に、また今後5年間、中国の輸入は10兆ドル、対外投資は5000億ドル、出国する観光客は5億人を超える見込みと発言している。

 

 

最も直接的に関係する中央アジア諸国やASEAN諸国はもとより、旧東欧諸国、アラブ諸国などからも構想に期待する声が挙がっている。例えばポーランドの識者は、陸路構想は中国との2国間関係をより強化する絶好の機会になるとし、特に中国西部は、①地理的に近いこと、②中国のなかで、相対的に成長率が高い地域であること、③東部・沿海部のように他の欧米各国との激しい競争に晒されることがないことから、ポーランドがその対中戦略をより特化する格好の場であると位置付けている。

 

またエジプトを始め22のアラブ諸国は、2014年6月北京で開催された中国・アラブ協力フォーラム大臣級会合で、具体的提案内容を見る必要があるとしつつ、構想を歓迎するとしている(2014年7月25日付人民網)。

 

EUは全体として、地理的にやや遠いこともあって、これまでのところ、それほど大きな関心は示してこなかったように見えるが、欧州諸国が相次いでAIIBへの参加を決めたことが弾みとなって、構想にも積極的に参加してくる可能性がある。EUにとって中国は2番目、中国にとってEUは最大の貿易相手だ。

 

アフリカでも動きがある。2014年、アフリカ連合委員会議長は「アフリカの全ての国の首都を高速鉄道網で結ぶことがアフリカの夢」と発言したが、15年1月ケニアを訪問した王中国外相は、これを「世紀のプロジェクト」と持ち上げ、中国はこの「夢」を実現させるための協力を惜しまないと述べている。アフリカでのこうしたインフラ建設が、前出のケニアでの鉄道プロジェクトやその他の港湾プロジェクトと相まって、構想の範囲を拡大させていく可能性がある。

安全保障政策に関連した警戒感も

他方、近時、緊迫の度合を深めている南シナ海におけるベトナムやフィリピンと中国との対立を見るまでもなく、中国がこれまでもしばしばその経済力を楯にして、他国に対し様々な形で政治的圧力を加えてきたことを考えると、米国や周辺諸国が、構想は中国の拡張的な外交戦略の一環に他ならないとの疑念・不安を持つことは当然だ。

 

2015年3月、政権交代したスリランカが、中国が支援するコロンボ近郊の港湾都市プロジェクトの中断を決めたこと、民主化を進めるミャンマーが、やはり中国が支援する鉄道等一部プロジェクトを中断していることなどは、環境への影響、調達面での不満などが一義的要因ではあろうが、その背後には、中国の影響が増大することに対する懸念がある。

 

米国が「マーシャルプラン」を推進した際には、すでに大国としての地位を確立し、欧州等と価値、理念を共有し、大きな抵抗がなかったのに対し、中国は、自身が認めるように、大国であるとしてもなお成熟した先進経済ではなく、また多くの国は必ずしも中国と価値、理念を完全に共有しているわけではない。

 

中国は相互に経済的利益を享受できる点を強調するが、諸外国は、中国の経済外交がその政治・安全保障政策と一体であると認識している。関係国、特に周辺国はインフラ建設促進への期待と同時に、一定の警戒感も持って対応していくことになろう。中国が構想にどれだけ国際社会から信認と協力を得られるかは、中国の外交政策全般の行方にかかっている。

 

 

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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