中国の重点政策の一つである「一帯一路」構想を解説している本連載。第8回は、中央政府が進める構想に乗り遅れまいと、必死にアピールする地方政府の姿をお伝えします。

各地方政府が欲しいのは中央からの「お墨付き」

これまで記述してきたとおり、中国の「一帯一路」構想の背後には国内経済要因もあり、国内的に構想がどう受け止められているのかも見ておく必要がある。

 

中国各地方政府の最大の関心事は、現在もなお、中央のお墨付きを得て開発を進め、できるだけ高い成長率を達成することにある。このため、中央から新たな政策が打ち出されると、各地方が競争してそれに関与しようとする傾向が顕著で、本構想も例外ではない。

 

2013年末、発展改革委・外交部が主催する構想座談会が開催されたが、出席を呼びかけられたのは、陝西、甘粛、青海、寧夏、新彊、重慶、四川、雲南、広西の西部9省区市、および江蘇、浙江、広東、福建、海南の東部沿海5省で、東北部や中部の地方政府は含まれていなかった。そのため、呼ばれなかった河南や山東等一部の省で、構想から排除されるのではないかとの不安・疑念が高まったと言われる。

 

 

陸路については、構想当初から、西部地域の陝西、甘粛、新彊、寧夏間で一種のゲームのような様相を呈していた。その後、四川や重慶等、西南の省市や、中部の河南等も構想に参画し始め、地域間の競争が激化している。

 

海上も、当初は、南方沿海部の広西、広東、福建が中心だったが、その後、浙江、さらには中部、北部の山東、天津まで関心を示すようになっている。すでに2014年、多くの地方政府がその政府工作報告で構想に言及、15年には、全ての地域が構想を重要課題として明確に位置付け、関連投資が総額1.04兆元、うち‘鉄公基’、鉄道、道路、基礎インフラが68.8%にのぼっている。

 

また海外投資は524億ドル、インフラ投資の期間が2-4年、また海外投資の約3分の1は国内と仮定すると、15年の関連投資は約4000億元で、0.2-0.3%のGDP押し上げ効果が期待できると伝えられる(2015年3月29日付証券時報)。

行動計画に見る各地域の位置付け
【行動計画に見る各地域の位置付け】
新彊―中央アジア、南アジア、西アジアとの交流協力深化、陸路の交通の中枢、商業・貿易・物流・文化科学技術教育の中心を形成、陸路の核心区
福建―海上の核心区
沿海都市―上海、天津、広州、深圳等15の沿海都市の港湾建設を強化、上海、広州等の国際空港機能強化し、一帯一路、特に海上ルート建設の先導・主力にする。
北京、辽宁(遼寧)、吉林、黑龙江(黒龍江)、内蒙古-北に開かれた重要な窓口
陝西、宁夏(寧夏)、甘粛、青海―中央アジア、南アジア、西アジアに向かうルートを形成、商業・貿易・物流の中枢、重要産業および文化・人的交流の基地
云南(雲南)―大メコン地域との経済協力の新高地、南アジア、東南アジアに面した放射上の中心
广西(広西)―海上ルートと陸上ルートを有機的に連結する重要な門戸
(資料)2015年3月30日付第一財経日報より転載

地理的条件を最大限にアピール

各地域が具体的にどう関与しようとしているのか。甘粛は蘭州新区(注1)を拠点として位置づけること、寧夏は自治区内の内陸拠点を整備し、銀川総合保税区の機能を強化することによって、中東アラブ地域との協力を進める上での中継的役割を果たすようにしていくといった計画を打ち出した。

 

甘粛は構想の一環として、省内の20の観光エリアを建設する計画もスタートさせた。新彊も地区内に北、中間、南の3つのルートを建設し、新彊を構想の中核、特にパキスタン等南西アジアとの物流・情報拠点という位置付けにし、また、石油備蓄・石油加工等を手掛けるエネルギー基地にしていくといった計画を打ち出している。さらに新彊は、ウルムチを起点として、構想に沿って、新たに二つの鉄道ルート建設を計画している(ひとつは、カザフスタン、トルクメニスタン、イランを経てトルコ南部のメーシンに至るルート、もう一つはウルムチとモスクワをつなぐルート)。

 

陝西はベルトの起点として‘6中心’(金融商業貿易物流、機械製造、エネルギー貿易・備蓄、文化・観光、ハイテク、高度人材育成)にしていく計画だ。重慶もベルトの起点として、長江経済ベルトとの結節点という重要な役割を担うとする‘両帯一区’構想を示し、2020年までに1.2兆元のインフラ投資を行うとしている。また、現在対欧貨物の70%を輸送している渝新欧国際鉄路(注2)の起点であることも主張している。

 

さらにこれまで、必ずしも構想の中核を占めるとは見られていなかった河南や東北3省(黒龍江、吉林、遼寧)の動向も注目される。河南は、ベルトの成功の鍵は物流であり、そのためには、鄭欧班列(注3)の起点で鉄道拠点である鄭州(河南省の省都)が物流拠点として最適であり、構想の戦略的後背地になると主張している。

 

黒龍江は鉄道、高速道路、港湾における通関の電子化を通じてロシア極東間の貨物輸送の迅速化、遼寧は大連港の整備等を通じて、欧州に向かう海陸総合輸送ルート、ロシア・モンゴル経済走廊に積極的と伝えられる。吉林はその地理的位置が陸路の「北線」、海路の「北の起点」にあたるとし、積極的に参画したいとしている。

 

注1:蘭州と新彊ウルムチ間高速鉄道(蘭新高速鉄路、全長1776km)が2014年12月開通。甘粛、青海、新彊を通る「現代の鋼鉄シルクロード」と称されている。

注2:Eurasia International Railway。重慶を起点、西安、蘭州、ウルムチ、カザフ、ロシア、白ロシア、ポーランド、ドイツのデゥイスブルグ、全長11000km、2010年10月開通。‘渝’は重慶、‘新’は新彊、‘欧’は欧州。CNNレポートによると、全長所要時間は16日と、海上ルートに比べ大幅短縮、また開業以来、中国がこの鉄道で欧州に輸送した商品総額は25億ドルにのぼる。

注3:鄭州を起点、新彊、カザフスタン、ロシア、白ロシア、ポーランド、終点ハンブルグ、全長約1万kmの国際貨物鉄道、2013年7月開通、中国欧州間の「新シルクロード」と呼ばれている。

 

 

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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