「長期に投資すればリスクが小さくなる」といわれるが…
投資のリスクを表す単位として「標準偏差」という統計数学の概念を使用します。大学受験の難易度を示すときに用いる偏差値は、この標準偏差を用いています。身長のバラツキ、体重のバラツキなどそういうものは、大量に観察すると平均値を中心にして概ね釣鐘状に分布するといわれます。
偏差値は、このバラツキの中央の所を50とし、40とした所がマイナス1標準偏差で、下から約16%の確率の所です。この下から約16%の所を統計学の用語では「マイナス1標準偏差」といいます。こうした知識は現在では高校1年生の数学Ⅰの「データの分析」で学習しているものですが、偏差値40未満の成績の学生は全体の下から約16%以下の学生ということになります。
標準偏差については、そうしたバラツキの程度を示す指標で、値が大きいと投資結果のブレ幅が多いいと考えてください。
よく「長期に投資すればリスクが小さくなる」と説明されることがあります。しかし、正確にいえば、理論的には長期に投資すればリスクそのもの、価格変動性自体は累積されて大きくなります。
内外の債券、株式への均等分散投資を行った場合で考えると、とくに最初の1年目、2年目は、偏差値40に相当する確率で運用成績の悪いケースを考えると元本割れを起こします。そして、4年目まで元本を超えることはないということになり、5年目になって偏差値40レベルの運用状況で元本を回復するのです(公的年金の資産運用の状況を参考に年率収益率5%、標準偏差10%で筆者試算)。
実際の統計では、株式に長期に投資をしていれば、価格のブレ具合は安定的となり、その収益性の平均値に近づいていくということがわかっています。この統計から導かれる考え方からは、長期投資は平均的な収益性を実現する方法、収益を安定させる方法でしかないということになります。
たとえば、図表の日本株についてのデータのように、1年投資も15年投資も年率の収益性はほぼ同じですが、リスク(標準偏差)は著しく小さくなっています。このデータから導かれる考え方からは、長期投資は平均的な収益性を実現する方法、収益を安定させる方法でしかないことになります。
リスクと収益率のトレードオフは「時間」の取り方が強く影響
分散投資をしたうえで、同じ日本株式への投資でも投資期間1年と投資期間15年ではリスクが異なることは、考えてもみなかったことではないでしょうか。
米国で全米証券アナリスト協会の会長を務めたチャールズ・エリスは、「運用期間が十分長ければ、短期では大きなリスクと見える運用手法を、不安なく取り入れることができる」とし、「平均期待収益率が、期間の長さとは無関係にほぼ一定であるにもかかわらず、投資期間が実際の収益率の分布に対して大きな影響を及ぼすこと」を同趣旨のデータで示し、「最近の調査では、リスクと収益率のトレードオフは、『時間』の取り方に強く影響されることが示されている」と述べています(チャールズ・エリス著鹿毛雄二・鹿毛房子訳『敗者のゲーム 原著第8版』2022年)。
なお、先述の日本株データの収益率が高い理由は、高度経済成長時代等の金利が高い時代を多く含むからです。
長く投資していると徐々に価格の変動性、つまりリスクは累積し、増えて行くのです。しかし、資産運用には収益があります。その収益が累積して行くスピードのほうが大きいので、結果として元本割れの可能性が時間の経過とともに減少すると考えるのが妥当です。また、これは、分散投資が前提であり、個別の株式となると話は別となります。
異論もあるのですが、これが現代投資理論でいうところの長期投資の効果ではないかと思います。
藤波 大三郎
中央大学商学部 兼任講師