資産の「計画的取り崩し」ができているシニアは2割以下
日本の家計金融資産の6割以上は60代以上の人が保有しています。また、高齢者の金融資産の年間取り崩し額は金融資産額の3%相当額であり、取り崩し可能年数は34年と推計されており、計画的に取り崩している割合は2割を下回っています(野村アセットマネジメント・株式会社野村資本市場研究所「『金融ジェロントロジーにおける資産運用に関する調査』結果について」2018年)。
つまり、わが国の高齢者は一般にお金を残して亡くなる方が多く、結果として日本全体の個人金融資産の多くを高齢者が保有することになっています。そうしたお金は銀行預金より株式や債券で運用したほうが、収益性が高くて老後の生活資金の確保のためにはいいのですが、実際には大半が預貯金で運用されています。
しかし、株価は価格変動が大きいわけです。日経平均株価は、バブル崩壊前のピークの1989年12月末には約3万8,000円でしたが、円高・デフレから製造業の海外移転が起こり、長期間にわたり株価は低迷し、2024年7月にようやくこの株価を上回ったという状況です。
ですから、シニアの方々は「とても株式投資などできない」と思うかもしれません。しかし、株式の投資家にとって重要な「株式益回り」という指標でみると、東証プライム市場全企業に投資した場合を試算すると6%台となります(2024年9月13日時点)。株式益回りとは企業の一株当たりの純利益を株価で割った値です。計算の上では、いまのような時代に年率6%以上も株式の投資家は収益を得られる計算になるのです。
もし、シニアの資金が企業の株式に向かい、国内での投資が増えれば日本経済が活性化し、結果として個人の資産運用にも好影響が出ることになります。しかし「それでは今日から株式投資を行います」といっても、シニアはこれから年金生活に入る、またはすでに入っているので心配なところがあります。
運用資金を使用する時期で分別&投資期間ごとに運用方法を変更
そこで、その対処策として、まず手持ちの資金を使用する時期で分別し、投資期間ごとに運用方法を変えることを考えることが大切です。なぜなら、概ね5年以上使用しない資金で内外の株式や債券による分散投資を行うと、比較的安定的で良好な運用結果が得られるからです。これは、中長期の債券、株式による資産運用は安定的で、収益性も銀行預金に比べて高くなるという傾向があるからです。
逆にいえば、目先の5年以内に使用する可能性のある資金はたとえ分散投資を行ってもリスクが大きく、債券・株式での運用には適さないのです。特に内外株式で運用する資金は10年以上使用しない資金で行うべきです。
金融資産の運用で重要なことの一つは、その資金の目的がどのようなものかという観点もありますが、このようにどの程度の期間運用できる資金であるかということが重要になります。この考え方はインベストメント・ホライズン(想定投資期間)を重視した考え方です。
実際、資産運用で堅実な資産運用が求められる大学の運用状況を見てみますと、優れた資産運用力で有名な国際基督教大学は、元本割れからの回復期間(Drawdown Recovery Period, DRP)を基準に5年以内の短期資産、6年から10年の中期資産、10年以降の長期資産と3区分による運用を行っています。
そして、内外株式への投資は、「市場環境によっては元本の回復に10年以上かかる可能性がある商品」の一つとしています。こうした運用による運用実績は、過去10年(2014年~2023年度)で年率7.6%、インフレ率1.1%を控除した実質収益率は年率6.5%となっています(国際基督教大学「2023年度の引当資産の運用実績と今後の方針」2024年)。
シニアの資産運用も、こうした投資期間ごとに運用方法、投資対象の金融商品を変える考え方を持つことが重要です。資産運用講座では、まず安全資産、リスク資産などと資産配分を教えることが多いのですが、最初に投資期間を考えることが基本となることを知ることが運用成功への近道です。
藤波 大三郎
中央大学商学部 兼任講師