入居後、たった数ヵ月で起きた悲劇
それからほんの数ヵ月後のことです。Aさんが母親の様子を見に施設を訪れると、母親のBさんは明らかにふさぎ込んでいる様子です。
「どうしたの? 元気ないみたいだけど、なんかいやなことでもあった?」とAさんが尋ねても、ハッキリとした返答はありません。「なにかの病気かもしれない」心配になったAさんは、母親を病院へ連れて行きました。
そこで医師から告げられたのは、予想外のひと言でした。「お母様は、ホームシックになっているようです」。
医師によると、Bさんは慣れ親しんだ思い出の我が家を離れ、長年の近所づきあいがいきなり絶たれたこと、さらに知らない土地で知らない人たちとの共同生活が始まったことによる寂しさとストレスでふさぎ込んでいるそうです。それを聞いたAさんは、愕然とするほかありません。しかたなく、母は老人ホームから退去させ、新たな“終の棲家”を探すことにしました。
「自分だけ熱くなってから回って……悔やんでいます。これからどうすべきでしょうか?」Aさんは、「介護経験もあるファイナンシャルプランナー」とネットで見つけた筆者のもとに、相談に訪れました。
“よかれと思って”が大誤算…施設入居前に確認したいポイント
筆者はまず、Aさんから一連の話を聞きました。
「私もできることなら仕事を辞めて母親の面倒を見たいという思いはありましたが、辞めてしまうと収入がなくなり、生活が立ちゆきません。母親を心配し、よかれと思って施設に入れたんですが……」
Aさんがそう言うように、介護離職によるデメリットが叫ばれる昨今、親の“終の棲家”の選択肢として「老人ホーム」を選ぶ人が増えています。
内閣府がまとめた「令和6年版高齢社会白書」によると、要介護者等から見た主な介護者の続柄は「同居している家族」が45.9%です。また、家族の介護や看護を理由とした離職者数は令和3年10月から令和4年9月までの1年間で約10.6万人と、前年の令和2年10月から令和3年9月の約8.8万人より20%ほど増加しています。
しかし実際のところ、家族の考えとは別に、自宅での介護を望む高齢者が多いという実態もあります。
日本財団が、67歳~81歳の高齢者に対して、 人生の最期の迎え方に関する意識調査を実施したところ、最期を迎えたい場所として、58.8%が「自宅」、次いで33.9%が「医療施設」と回答しました。
一方、絶対に避けたい場所は、42.1%が「子の家」とし、最期に重視することについて、95.1%が「家族の負担にならないこと」と回答しています。
今回の事例のように、安易な考えで老人ホームに入れてしまうと、あとになって「合わなかった」ということになりかねません。したがって、老人ホームに入居する前に、下記のようなポイントを踏まえ慎重に検討する必要があるでしょう。
1.老人ホームへ入居する前に事前の話し合いをする(本人の意思を尊重する)
⇒最期をどこで過ごしたいのか?/誰に介護をしてもらいたいのか?/お金の準備はできているのか?/どのような生活を送りたいのか?
2.自宅の近くの施設へ入居する(住み慣れた街で友人がいる場合)
3.老人ホームが合わないなど、途中で退去する可能性を見越して支払い方法を検討する