今回は、理事会運営をスムーズに進めるための「根回し」の方法を見ていきます。※本連載は、一級建築士・須藤桂一氏の書籍『まちがいだらけのマンション管理タブー集』(誠文堂新光社)の中から一部を抜粋し、マンション管理組合の理事や役員の方が間違えやすい点、その結果として生じる問題などについて、1つずつ具体的に取り上げ、わかりやすく解説します。

「マンションの人間関係って重要だったの?」

このところの理事会は「理事長派」と「反理事長派」に分かれてしまい、何の話をしてもかみ合わない状況です。理事会では両者が真っ向から対立して、対立ムードが顕著に表れています。

 

理事長:ずいぶん議論してきましたが、この議題については推進します。

 

反理事長派:反対! 絶対反対です。これまで散々問題点を指摘してきたじゃないですか。

 

理事長:そんなに言うのなら、あなたの考えを取り入れ、別の方向性で推進はどうですか?

 

反理事長派:それも反対! ダメです。ダメです。

 

フロント:(どっちも同じベクトルで、同じようなことを言っているのになぁ。こりゃ人間関係の問題だな。もう少し根回しやコミュニケーションがあれば、どうってことないのに)

「キーマン」となる理事と事前に打ち合わせを行う

組合活動は1~2割の熱心な活動をする人と、8~9割のサイレントマジョリティで構成されています。その1~2割の熱心な人のうち、少数ですが問題児がいます。この問題児は声が大きく、議論や質疑応答時間の9割を支配することがあります。

 

ここで問題になってくるのが、静観しているサイレントマジョリティが問題児の声に飲まれて問題児側についてしまうことです。

 

こうした場面では、サイレントマジョリティを正しい方向に導く必要が出てきますが、事態が起こってからの軌道修正はとても困難です。そこで大切になってくるのが、事前のコミュニケーションや根回しです。

 

例えば、理事会で議題をいきなり出すのではなく、理事のキーマンとは事前にメールや電話で打ち合わせておくのです。あるいは、理事会の前に立ち話をちょっとする程度でもかまいません。

 

総会についても同様です。いきなり上程するのではなく、重要案件では事前の広報やアンケートを怠らないことが必須です。そして、声の大きな問題児が現れそうなとき、問題が紛糾しそうなとき、特別決議のときなどは、事前のコミュニケーションや根回しがより一層求められます。

 

理事長が1人孤立し、孤軍奮闘するのは得策ではありませんし、決して良い結果を招きません。発言するだろうと予測できる相手には事前に議案書を見てもらい、理解を得るなどの受容する態度もコミュニケーションを円滑にするためには大切です。

 

また、いつも上げ足ばかり取る人に対しては、みんなの前で労をねぎらうなどして、あえて「敵」の懐に入ってみてはどうでしょう。敵対心を抱き続けるより、味方につけるほうが確実に良い結果につながると思います。

 

また、親しい役員に最前列の席に座るよう依頼し、「異議なし!」とすばやく声をあげてもらうといった工夫も、議事を滞りなく進めるうえで大切です。ポイントは「賛成してくれなくてもいいが、反対させないように持っていく」ことです。

コミュニケーションの良い管理組合はマンションの資産

あるマンションで理事会に参加したとき、やりとりに温かみがあって笑いも多く、一致団結している印象を強く受けました。その理由は、理事会メンバーの方々自身にあったのです。

 

理事会が終わると、皆さんがビールやワインを持ち寄って、理事長の自宅に集合。いつものように飲みニケーションが始まり、それは夜中まで続いて、私もお呼ばれされるままに2時間ほどいい気分でお付き合いをさせていただきました。

 

ワイワイガヤガヤいろいろな話をしながらの飲みニケーションは楽しく有意義で、とても素敵な理事メンバーの皆さんでした。

 

実は、この理事会は管理組合にとってかけがえのないアセット=資産なのです。そこで、私はすかさず提案をしました。「会議費として理事会の予算をつけましょう」と。

 

理事メンバーが今期だけ一致団結するのではなく、5年後も10年後もコミュニケーションが良い“まとまりのある理事会”に「仕組み化」していくことが大切だからです。理事会や専門委員会の出費には、お茶やお弁当代がありますが、これらを少し節約して理事長宅での飲みニケーションの費用にあてるわけです。

 

また、飲みニケーションがないマンションの場合は、お茶やお弁当の支給だけでもかまいません。目的は、一緒にお酒を飲むことではなく、コミュニケーションを持つことですかから、自分たちのマンションのやりやすい方法でぜひ取り組んでいただければと思います。

 

根回しを実践するベースには、良好なコミュニケーションが必要です。飲みニケーションで楽しみながら築いた良い関係は、マンションの資産にもなりますよ!

まちがいだらけのマンション管理 タブー集

まちがいだらけのマンション管理 タブー集

須藤 桂一

誠文堂新光社

分譲マンションの住人にとって、管理費や大規模修繕計画・長期修繕計画などの見直しは今や避けられない問題です。特に2000年以降、大量に供給されたマンションの多くは、現実にその問題にぶち当たっています。湾岸地域のマンシ…

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