投資の世界に「都合良く儲かる」商品はない!?
資産形成で投資を考えるときに、多くの人は、まず儲かりそうなものを探しますよね。投資についてもう一歩理解のある人は、自分が受け入れるリスクの大きさに比してリターンの良いもの、つまり、投資効率の良いものを探そうとします。
投資におけるリスクとリターンの関係は、第2回でお話ししたように、食事にたとえれば、カロリーや塩分(健康へのリスク)と、味の濃さや美味しさ(リターン)の関係のようなものです。カロリーや塩分が多い食事は美味しく感じますが、そういった食事を続けると、健康への影響もでてきますよね。だから、多くの人は、食生活において美味しいもの(儲かりそうなもの、リターンの良さそうなもの)ばかりに手を出しません。自分の体調にあったカロリーや塩分(受け入れることができるリスク)も考えながら、魅力のあるものを探します。
ただ、食生活においては便利な食べ物もあります。たとえば、身近なダイエット食の定番として、こんにゃくゼリーがありますよね。「最近、食べ過ぎたな~」と感じたり、少しカロリーをセーブしようとする際に、空腹を満たすために利用したりします。カロリーが低く繊維質の多いこんにゃくが原材料になっているので、口当たりを良くするために多少の糖分は含まれていますが、カロリーに気遣う人にとってはたいへんに便利な食べ物ですよね。こんにゃくゼリーを投資におけるリスクとリターンの関係に置き換えてみると、リスク(カロリー)は抑えながらもリターン(口当たりや満足感)を満たしてくれるものです。
では、資産形成の世界でも、このような都合の良いものはあるのでしょうか? 実は残念ながら、こういうものが存在しないのが投資の世界です。長期に渡って安定的に、リスクは低いにもかかわらず高いリターンが得られる投資対象はほぼ間違いなく存在しません。リスクが低いものは期待できるリターンも小さく、高いリターンをのぞむものはリスクも高いです。こんにゃくゼリーのように、都合よく満腹中枢の欲求を満たしてくれるものはないのです。
日本に限らず世界中で過去においても何度となく、リスクが低いにもかかわらず高い収益が得られることを謳った投資商品による詐欺まがいの事件がありました。少し前にも、実際に生きている牛に投資をして10%近い利回りが得られることを謳った「あぐら牧場事件」や、債権の回収が不能になったことで問題となった米国における医療請求の「レセプト債」も、リスク・リターンの関係でみれば、図表における左上の低リスク・高リターンを謳ったものです。でも、実際にはそのような旨味のある投資対象は存在しません。仮に、一時的にはそういうことがあるかもしれませんが、常にその関係が成り立つことはありません。
【図表】
高いリターンには、必ずリスクが潜んでいる
詐欺ではありませんが、投資信託においても、カバードコールのようなオプションを付けることによって、一見するとリスクが限定されていながらもオプションプレミアムによる収益(リターン)機会が高いような仕組みのファンドがあります。しかし、必ずといってよいほど、高いリターンを見込めばどこかにリスクは潜んでいるはずです。一時的に良い収益が得られるかもしれませんが、その結果はあくまで一時的なものなのです。
投資の場合には、理論に基づいて計算されているので、こんにゃくゼリーのように、味覚や食感による錯覚だけでは隠しきれません。
個人投資家の世界に限らず、米国のリーマンショックも潜在的なリスクを包み隠すような証券化による手法がバブルを広げ、最後はリスクが顕在化して大きな金融ショックを引き起こしてしまいました。
もちろん、私たちが普段から接している信頼できる金融機関が販売する投資信託には、詐欺まがいの商品はありません。ただ、ノーリスクではなくても、低リスク・高リターンを連想させるような投資信託はあるかもしれません。特に、金利がこれほどまでに低くなり、簡単にリターンを得ることができない環境下においては、多くの人が少しでも高い収益を血眼になって探し求めるようになります。収益を求め過ぎるあまりにリスクについて鈍感になると、世間では詐欺が起こりやすく、また、投資商品においても高収益を謳った商品が人気を博します。
でも、世の中において、旨味のある話はないことを再認識しておきたいものです。リスクとリターンには安定した関係があります。私たちは自分のリスクの範囲内で投資信託を選ぶことが大切であり、それとともに、適正なリスクの投資信託なのか、見えないリスクが隠れていないのか、注意を払うことが大切です。