前回は、節税に偏り過ぎた相続対策が裏目に出た事例を取り上げました。今回は、資産防衛に重要な「バランスシート」発想の資産管理について見ていきます。

純資産を拡大するサイクルをつくることが大切

資産家にとって大事なのは、「土地」を守ることではなく「資産」を守ることです。「資産」はいろいろな形をとります。土地本位制で土地神話が根強く残っていた日本で、これまではたまたま「土地」という形だったと考えるとよいでしょう。

 

資産を守るために重要なのが、バランスシート(BS)の発想です。企業のバランスシートでは、左側が「資産」、右が「負債・資本」に分かれます。簡単にいえば、「資産」とは土地や建物、在庫などのモノです。

 

その「資産」を取得するお金をどのように調達しているのかを表すのが「負債・資本」です。また、「資産」と「負債」の差が「資本」であり、これを不動産投資に置き換えると「純資産」ということになります。

 

さて、「資産」が毎年、どのように稼いでいるかが損益計算書(PL)です。損益計算書では、売り上げと経費の差が利益となります。この利益は毎期ごと、「資産」と「負債・資本」に蓄積されていきます。

 

つまり、資産を活用することによって毎年生まれる利益がバランスシートにプラスされ、次第に純資産は増えていくのです。このサイクルをつくることが、資産を守ることにつながるのです。今、どんな資産を持つかによって10年後に大きな差が生まれるわけです。

 

【図表】 純資産(利益)拡大のサイクル

利益を生まないアパートを建てたばかりに・・・

前回紹介したGさんの場合、負債を増やして利益をあまり生まないアパートを建てたばかりに、逆のサイクルが回り始め、「純資産」を減らしかねない状況になっているわけです。

 

実際、Gさんから資料をいろいろ見せてもらったところ、金融機関が紹介したハウスメーカーによるアパート経営のシミュレーションでは、建築費に対する賃料収入で利回りを計算し、賃料もかなり高めに設定され、空室率も5%程度のままになっていました。それでいて、土地の価格を含めた資産全体でのROAはかなり低いのです。

 

今ではローンの返済の足しにするため、Gさんもパートに出るようになり、土日も夫婦そろって仕事ということは珍しくありません。子どもの学校の運動会などの行事にもなかなか参加できず、「こんなことならアパートなんて建てるんじゃなかった」とおっしゃいますが、もう後の祭りです。

 

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本連載は、2015年9月19日刊行の書籍『余命一カ月の相続税対策』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。
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本連載の内容は、平成28年7月現在の税制・関係法令等に基づき記載しております。今後の税制改正等により税務の取扱等が変わる場合もありますので、記載の内容につきましては将来にわたって保証されるものではないことにご注意ください。個別の税務取扱い等については、税理士や所轄税務署等にご確認されることをお勧めします。

余命一カ月の相続税対策

余命一カ月の相続税対策

福田 郁雄,木村 祐司

幻冬舎メディアコンサルティング

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