前回は、相続対策で重要な「財産を守る」ではなく「増やす」視点について取り上げました。今回は、節税に偏り過ぎた相続対策が裏目に出た事例を見ていきます。
アパート建設で相続税を半分程度にできたが・・・
東京都下に住むGさん(45歳)は、地元の大地主一族の分家筋に当たる資産家です。ご本人は長女で婿養子をもらい、お父さんが所有していた自宅やアパート、そのほかの土地(多くは市街化区域農地)を3年前に相続しています。
問題は、お父さんが亡くなる5年ほど前、地元の金融機関の話に乗り、相続対策の一環として駐車場として活用していた土地にアパートを3棟建築したことです。建築費は1棟6000万円で合計1億8000万円、その全額を金融機関からの借り入れで賄いました。
確かに、相続時にはアパートの土地建物の時価と相続税評価額の差がかなりあり、相続税を半分程度に抑えることができました。しかし、現在、アパートからの家賃収入は年間2000万円、諸経費が500万円かかりネット収入(NOI)は1500万円です。
一方、ローンの返済が年間1000万円(元利合計)かかり、手元に残るのは500万円にすぎません。しかも、アパートが立っているのは最寄り駅からバスで20分もかかる場所であり、現在は空室率が2割を超えてきています。ローンもまだ1億2000万円ほど残っています。
更地のときよりも下がった「土地の価値」
さらに問題なのは、アパートを建てた土地(市街化区域農地)の価値が、更地のときよりも下がってしまったことです。これは、アパートを建てたことにより居住用の土地としてではなく、投資物件として評価方法が収益還元法になったためです。
また、土地の評価額を下げるためにもともとの整形地をわざわざ、いびつで不合理な土地利用区分にして分割してしまっているのも原因でした。先行きに不安を感じ、私たちのところにご相談があったのですが、結局、節税ばかり考えてとった対策がことごとく裏目に出ているのです。
この話は次回に続きます。
株式会社福田財産コンサル
代表取締役
1959年生まれ。ミサワホームの資産活用部門責任者、アパマンショップの不動産投資会社の責任者を経験後、2004 年に独立系資産経営コンサルティング会社として、株式会社福田コンサルを設立。特に不動産を活用した相続税対策のコンサルティングに絶大な強みを持ち、17億円も相続税を減らすなど同業他社の追随を許さない専門力を持つ。コンサルティングしてきた資産は総額1200億円超。ファイナンシャルプランナー、公認不動産コンサルティングマスターおよび相続対策専門士統括講師、相続アドバイザー養成講座講師。相続税対策や不動産投資に関する複数の著書あり。
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連載相続対策の切り札「プライベートカンパニー」の活用術
木村祐司税理士事務所
税理士・アセットコンサルタント
1967年生まれ。中学卒業後、タンカーの甲板員から始まりブルーカラーの仕事にいくつか従事する中で、給料から天引きされる税金に疑問と興味を持ち税理士を志す。1998年12月税理士試験に合格。当初はコンサルティングファームでファイナンシャルディレクターとしての経験を積み、企業会計実務の知見を得た後に木村祐司税理士事務所を開設、現在に至る。
経営者や資産家の財務・税務コンサルティングを強みとし、絶対的な信頼感のもと企業の資金調達、経営管理、節税対策や資産管理、事業承継までを任されている。資産3億円以上を得意とし、相続税・贈与税だけではなく、資産運用の観点からトータル的なTAXプランニングの提案・実行をおこなう。
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