前回は、相続税対策で「最優先」すべき事項について取り上げました。今回は、もめやすい遺産分割を円満に進める方法について見ていきます。

遺産分割の割合は「誰が親の面倒をみるか」がポイント

ここで、最重要課題の「相続人の円満」を少し考えてみましょう。

 

遺産分割のやり方はとりあえず二つに大別できます。一つは長男といった家の跡継ぎがほとんどの遺産を相続するという長子相続的な分割。もう一つはその対極に位置する均分相続的な分割です。そして全般的には後者が増えているように思います。

 

しかし近年はこれらとは別に、誰が親の面倒をみるか(みたか)が大きなポイントになりつつあるようです。今日、介護は大変な作業です。むろん親にしてみても、早々とどこかの施設に入るより、なるべく自宅で子どもに介護してもらいたいと思っているでしょう。

 

したがって私は、基本的には最後まで親の面倒をみた人が遺産の多く(少なくともその住まい)を相続すべきだと考えます。とするならば、その人が跡継ぎであるべきでしょう。しかし、現実にはそうでない場合も少なくないようです。この調整は難しく、遺産分割の争いはこのあたりから発生するケースがかなりあります。

相続人どうしが、互いの状況を理解し合うことが大切

分割に当たっては、各相続人の現在の状況も考慮されてしかるべきでしょう。たとえば事業等に成功して金銭的にも余裕のある人と、生活苦にある人との違いです。先に述べた民法の法定相続分の規定など、まさに「大きなお世話」です。まったく気にする必要はありません。とにかく皆が納得するような、柔軟かつ臨機応変の分割を行うべきだと思います。

 

では、円満にまとめるにはどうすべきなのでしょうか。それにはまずお互いが、自身の立場や考え方を忌憚なく説明することです。そして何より重要なことは、そうした相手の立場等をお互いが理解することだと思います。そうすれば(構造的な対立がない限り)、落ち着くべきところに落ち着くのではないでしょうか。

 

それでも合意に至らない場合には、お互いの本音ベースの主張を理解し合った上で、妥協できる線を探します。その際には「足して二で割る」のも立派な手法です。分割協議の成立は、「妥協の産物」と割り切るべきでしょう。

 

なお、財産の大半を所有する父に相続が発生(一次相続)した場合の遺産分割は、やがて発生するであろう母の相続(二次相続)後の分割を想定した上でのものであるべきです。一次相続における母の相続財産の取得は、二次相続までのつなぎと考えるのです。

 

とはいえ家族によっては、円満はおろか簡単には妥協できないといった場合もありましょう。たとえば、以前から家族間に深刻な感情的対立がある場合、むちゃとも言うべき主張をする人がいる場合、兄弟が跡継ぎといった一つの座を争う場合、親から一部の人がすでに多くの資産を持ち出していると思われる場合等々です。

 

しかし、それでも決裂は絶対に避けるべきです。決裂するのは簡単ですが、これをやってしまうといいことは何もありません。自身の主張が実現されないことはもちろん、遺産もほぼ凍結状態です。しかも、何とか体裁だけはとりつくろっていたはずの家族は、もう完全にバラバラ。残るはお互いの憎しみだけです。将来の冠婚葬祭もまともな対応がとれなくなることでしょう。

 

となれば何とか妥協に持ち込むことです(その際には誰かに間に立ってもらうのもいいと思います)。妥協となれば「せめて足して二で割ったところで」とお考えかもわかりません。しかし、決裂した場合との比較をしつつ考えるべきです。場合によっては、先方の主張を丸呑みするのに近い状況すら覚悟する必要もあるでしょう。

 

いわば「煮えくり返る思いを胸に、笑って判を押す」といったところです。極めて難しいことは承知の上ですが、この路線でいかれることを進言いたします。

本連載は、2014年2月27日刊行の書籍『相続税を減らす不動産相続の極意』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

相続税を減らす不動産相続の極意

相続税を減らす不動産相続の極意

森田 義男

幻冬舎メディアコンサルティング

相続税対策の成否は「土地の相続税評価をいかに行うか」にかかっています。 しかし、専門家であるはずの税理士や金融機関の担当者等が、まったくと言っていいほど不動産を知らない状況にあるとしたら…。 本書では二十数…

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