前回は、10億円の不動産と4000万円の現金、相続人はどちらを欲しがるのかを取り上げました。今回は、不動産の本当の価値を左右する「換金性」という要素について見ていきます。

中古の建物の市場価値は、驚くべきペースで下落する

不動産等の資産価値を考える際には、それがどの程度の換金性を有しているかの検討は重要性が高いと言えるでしょう。

 

通常の更地であれば、換金にはさほど苦労はしないはずです。ただし、いくらで売れるかに関して確定的なことは言えません。500万円分だけ売りたいというわけにもいきません。ついでに言えば、売却には仲介手数料といった諸経費もかかりますし、譲渡所得税の問題もあります。ただし売却自体はそう難しいわけではありません。

 

しかし、こうした最も換金性の高い更地との比較を考えれば、預金(しかもこれは税引き後の資産)がいかに有利であるかがおわかりいただけるでしょう。では、建物付きの土地はどうでしょうか。一例として、そこには20年前に3000万円で建てた自宅があるとします。

 

この場合に問題となるのは建物の売れる値段です。結論を言えば20年も経過している建物の市場価値はほぼゼロとされています。しかし、この建物は物理的に見てもまだ20年は十分使えるでしょう。さらに所有者・売主にしてみれば、主観的には2000万円程度の使用価値はあると思っているのかもしれません。

 

ただ、これを売りに出せばほぼゼロ。買主から「取り壊して、更地渡しにしてくれ」などと言われようものなら、むしろ取り壊し費用の分がマイナスとなってしまいます。築後20年でゼロと言われることからもわかるように、中古の建物の市場価値は驚くほど速いペースで下落していきます。つまりこうした土地建物に関しては、建物に感じていた資産価値の大半をあきらめなければ売却できないことになります。

相続税評価は市場価値と乖離した「建前的」な評価

次にアパートです。この場合にはアパートの収益性が売値の水準を決めます。一般に「土地を遊ばせておくよりも・・・」といった流れで建てられたアパートの収益性はあまり期待できません。そうであれば「更地価格+建築費」の額の半値に近いものにもなりかねません。

 

となればこの水準では、とても売る気にはならないでしょう。つまりアパートを建ててしまえば、その土地建物には流通性がほぼなくなってしまうわけです。

 

今度は共有を考えます。これがウマの合わない人との共有物であれば、流通性抜群の更地であっても、その換金性に関しては相当のリスクがあります。一緒に売りたいと言っても拒否される可能性が高いからです。むろん共有持ち分などは誰も買ってくれません。ただし円満な身内との共有であればノープロブレムです。

 

借地権と底地の関係は、先のウマの合わない人との共有関係と同じと言っていいでしょう。つまり、地主の所有する底地は換金性がほとんどありません。こうした換金性の欠如は、本来の資産価値に極めて大きな影を落とします。

 

いろいろ述べてきましたが、肝心の相続税評価は何を評価しようとしているのでしょうか。その結論はズバリ市場価値です。したがって、たとえば相続財産の評価額が2億円であったとすると、それは2億円の預金があったと同じと考えているわけです。そうであれば、今にも2億円で売れる土地でなければ、「話が違う」となってしまうでしょう。

 

ところが実際の相続税評価はまったく違っています。土地の換金性の問題など何ら考えていません。アパートの収益性がどうであろうが、どのような共有関係であろうが、借地権・底地であろうが、他人の抵当権がついていようがおかまいなし。それらを一切無視した上での建前的な評価となっているのです。

本連載は、2014年2月27日刊行の書籍『相続税を減らす不動産相続の極意』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

相続税を減らす不動産相続の極意

相続税を減らす不動産相続の極意

森田 義男

幻冬舎メディアコンサルティング

相続税対策の成否は「土地の相続税評価をいかに行うか」にかかっています。 しかし、専門家であるはずの税理士や金融機関の担当者等が、まったくと言っていいほど不動産を知らない状況にあるとしたら…。 本書では二十数…

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