ミドル期シングル増がもたらす東京の変容
日本全体で進行するミドル期シングル化の大きな要因は、晩婚化や未婚化といった家族形成行動の変化、すなわち生殖家族形成の遅れや回避に求めることができます。そのミドル期のシングル化が東京区部で卓越していることについて、本稿ではその理由を東京区部および東京圏をめぐる人口移動との関係から分析しました。
その結果として以下の内容を指摘できます。まず、東京圏の転入超過が1990年代後半以降に拡大に転じていますが、それ以前とは異なり、東京区部の転入超過数が半数を占める状況が生じていました。そして人口移動の年齢パターンとして、コーホート・シェア※の変化からは1970年代以降出生コーホートにて20代後半以降も東京圏や東京区部への転入超過が継続する変化がみられています。
これは過去のコーホートと比較して、相対的にミドル期人口がより多く東京区部に集中するようになっていることを意味する変化です。そして人口移動調査を用いて東京都を対象地域として分析したところ、ミドル期人口のシングル率は、男女ともに東京圏外出身者の方が東京圏内出身者よりも高い値を示しました。
シングル化傾向の強い人が東京にやってくるワケ
つまり人口移動が、よりシングル化傾向の強い人口集団の転入を促進する効果を持っており、それが東京区部のミドル期シングル化の卓越に結びついているということです。ただし、東京圏外からの転入者の人口規模は縮小しており、そのシングル率の相対的高さが東京都(あるいは東京区部)のシングル率を上昇させる効果は、拡大を続けているというわけではありませんでした。
この結果は、転入者が東京都や東京区部のシングル化を促進する一方で、それだけでは全国に対する東京都・東京区部のシングル化の卓越が説明しきれないことを意味しています。
東京圏内出身者のシングル化も全国的な水準よりも強く進行していることから、仮説的思考として東京区部への転入者がミドル期でもシングルとして自由な生活を送っている様をみて、東京圏出身者もそれに倣うような家族形成行動、すなわち生殖家族形成からの回避をするようになっていると考えることもできるかもしれません。
類似の視点は廣嶋(2016)にて、「人口移動は単なる量的効果以上に、大都市居住者自身の家族形成の遅れにも影響を及ぼしているとみるべきではないだろうか」として提示されています。
また、ミドル期シングルの配偶関係、親の居住地をみると、出身地と男女の組み合わせによる明確な違いがみられました。これは男女によって東京区部に居住するに至るライフコースの違いがあり、また親との関係性にも違いがあることを意味しています。
就職や進学といったシンプルな理由ではない人口移動の多様性が東京区部のシングルにはあり、その多様性が人口移動によってさらに強まっているという循環構造の存在が考えられました。これは人口移動と家族形成行動との関係として提示した、移動晩婚相互作用仮説とも類似した構造といえるでしょう。
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