配当されなかった利益は内部留保になる
企業の利益は配当という形で株主に山分けされるのが原則ですが、実際には利益の一部しか配当せずに残りは企業が持っている、という場合も少なくありません。これを「内部留保」と呼びます。「もっと大きな商売をして大きく儲けよう」というわけですね。
たとえば100円の利益のうち40円だけを配当して60円は内部留保したとしましょう。資産は現金160円になります。内部留保は、バランスシート上は資本金と同じく純資産の部に記載されるので、純資産が60円増えます。やはりバランスシートの左右は一致するわけです。
考え方としては、「利益は1度全額配当したが、60円分の株券を印刷して株主に買ってもらった」という取引を、手間を省いて内部留保した、ということなので、資本金と同じ純資産ではあるけれども一応項目を分けて内部留保という所に記載する、ということですね。
プラスの利益で配当されなかった分が内部留保になる一方で、損失(=マイナスの利益)は内部留保を減らす要因となります。100円で仕入れた物が半分腐ってしまった場合には、資産が50円分減りますが、損失の50円は内部留保を減らすので、やはり左右は等しくなるわけです。
純資産が多い企業は倒産しにくい
企業は、負債を返済しなければなりません。ということは、資産が減って負債よりも小さくなってしまうと倒産する可能性が高まる、ということになります。銀行は、「借り手は資産を売っても負債をすべて返すことができない。ということは、ほかの銀行が返済を受ける前に我が銀行が急いで返済を受けてしまわなければ」と考えるので、各銀行からの返済要請が殺到して倒産してしまうわけです。
一方で、純資産が多額にある企業は、赤字が続いても純資産が減るだけで、倒産のリスクはそれほど高まりません。株主は気が気ではないでしょうが、「自分の出資した資金を返して欲しい」とは言えないので、企業の資産が急激に減ることはなく、銀行が不安になることは考えにくいからです。
一株あたり純資産額が株価の基本
企業が解散する時は、資産をすべて売却して負債をすべて返済して、残りを株主が山分けします。資産が取得価格どおり(バランスシートに記載されている通り)で売れれば、株主は純資産額を山分けすることになります。したがって、株価の基本は一株あたり純資産だ、と言えるでしょう。
購入した土地が高く売れたり安くしか売れなかったりすることはあるでしょうが、本稿ではそうした可能性は考えないようにしましょう。
購入したばかりの新車でも、会社が解散するときは中古車として買い叩かれるでしょうが、実際には会社は解散せずに新車は大いに利益に貢献すると期待されますから、本稿ではそうしたことも考えないようにしましょう。
実際には、株価は一株あたり純資産より少し高いはずだ、というのが理屈です。企業にはバランスシートに記載されない資産があるからです。無形資産と呼ばれるもので、ノウハウや知名度、信用などが利益に貢献することを見込んで株価が高くなるはずなのです。日本の上場株は一株あたり純資産額を下回っているものも多いのは、不思議なことですね。
今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。
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塚崎 公義
経済評論家
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