(※写真はイメージです/PIXTA)

ある日突然、病に倒れて危篤状態になった高齢の父親。近い未来、遺産相続が予想されますが、相続人となる母親に認知症の症状があることを、子どもたちは懸念しています。対処法はあるのでしょうか。司法書士法人永田町事務所の加陽麻里布氏が解説します。

高齢の父が突然倒れたが…母は認知症、相続はどうなる!?

70代の父親が突然の病気に倒れ、危篤状態になってしまいました。とてもつらいですが、近い未来、相続が発生すると思われます。

 

うちの家族構成は、50代の長男である私と、40代の二男である弟、そして70代の母親の4人です。

 

実は、父親の病状以外にも心配事があります。母親は体は元気ですが、以前より認知症の兆候が見られるのです。相続が発生した場合、法律上、どのような懸念点が考えられるのでしょうか。

 

(50代会社員)

 

高齢化の進展に伴い、認知症を患う方が増えている日本では、今回の相談のような状況に置かれ、悩む方が増えています。相続人に認知症の方がいた場合、主に4つの懸念点が上げられます。

 

①遺産分割協議ができない

②認知症の相続人が相続し、銀行口座に入金しても凍結されてしまう

③不動産などの高額な財産を相続しても、その後の売買契約の当事者になれない

④不動産を相続した場合、管理が難しくなる

 

これらについて、くわしく見ていきましょう。

 

①遺産分割協議ができない

遺産分割協議は、必ず相続人全員で行わなければならないと規定されています。

 

しかし、認知症を患っている方は、認知症の症状の重さにもよりますが、遺産分割協議に参加しても、その協議は法律上有効と認められない可能性が高くなります。

 

また、認知症を患っている方を抜きにして、残った相続人だけで遺産分割協議を行っても、その協議は法律上無効とされてしまいます。

 

②認知症の相続人が相続し、銀行口座に入金しても凍結されてしまう

判断能力が著しく低下していると判断された方の場合、金融機関から口座を凍結され、お金を引き出せなくなってしまう場合があります。

 

口座が凍結されると、本人のための医療費や、老人ホームの入居費用だけでなく、日々の生活に必要なお金まで引き出せなくなってしまいます。

 

そうなると、一時的に家族が負担しなければなりません。先ほどの相談内容でいうと、長男・二男の2人になります。

 

③不動産などの高額な財産を相続しても、その後売買契約の当事者になれない

認知症は民法上〈意思能力のない人〉として扱われるため、不動産の新規売買契約はもちろん、遺産分割協議に参加しても、法律上有効と認められない可能性が高くなります。

 

財産管理(不動産や預貯金などの管理、遺産分割協議などの相続手続き)や、身上保護(介護福祉サービスの利用契約・施設入所入院の契約締結)などの法律行為を1人で行うのは難しくなります。

 

④不動産を相続した場合、管理が難しくなる

認知症になると、預貯金はもちろん、不動産などの管理行為もできなくなります。

成年後見人制度の「落とし穴」

認知症となり、口座を凍結されて預貯金も引き出せず、不動産等の管理もできず、遺産分割協議にも参加できないとなれば、「成年後見制度」を利用して、成年後見人を交えて解決していくしかありません。

 

しかし、成年後見制度の利用については、デメリットも多く存在します。

 

そもそも成年後見制度とは、意思能力のない方の財産を管理する「成年後見人」を家庭裁判所に選任してもらうのですが、専門家が就任するケースが非常に多くあります。

 

その場合、専門家に月々1万円程度の報酬を支払わなければいけません。

 

仮に親族が選任された場合でも、成年後見人を監督する「監督人」が付くケースも多くあります。監督人に報酬を支払うという点では、利用のデメリットは変わりません。

 

「成年後見制度=財産を守るための制度」なので、相続財産を自由に使うことは難しくなります。

 

また、この制度は一度利用すると変更や取り消しは事実上で不可能となります。

 

認知症の方が意思能力を回復すれば、この制度の取り消しは可能です。しかし、現実的に認知症になってから回復して成年後見制度を辞める事例は極端に少ないので、なかなか難かしいといえます。

 

成年後見制度の詳細については、記事『夫の年金で暮らす妻、法定後見人のひと言に思わず「どうやって生きていけばいいの!」…トラブルが絶えない〈法定後見制度〉の実態【司法書士の助言】』で解説しています。あわせてご確認ください。

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