(※写真はイメージです/PIXTA)

近年、働き方にとらわれない人生の選択肢のひとつとして注目されているFIRE。年を重ねる前の身体が元気なうちに自由な時間をたっぷりと手に入れられたら。そしてそれを叶えられるだけの資金があったら……。しかし、現実は早々上手くいかないようです。本記事では、実際に早期リタイアしたYさんの事例とともに、FIREの注意点について社会保険労務士法人エニシアFP代表の三藤桂子氏が解説します。

FIREという選択肢

FIREとは「Financial Independence, Retire Early」の頭文字をとったもので、「経済的自立と早期リタイア」のことをいいます。FIREは、投資元本を用意し、その運用益で生活していくスタイルになります。

 

一般的に早期退職したあとは、これまで貯めた貯金や退職金等を生活資金として、取り崩しながら生活していきますが、FIREであれば、元本を減らすことなく生涯を終えることができます。

 

現在、60歳の元会社員Yさんは50歳でFIREしました。

 

首都圏近郊に住むYさんは大学卒業後、中小企業に就職。仕事に没頭し、必要生活費以外はあまり無駄使いすることなく、知り合いに勧められた保険積立と定期積立を行い、残りは給与が振り込まれた通帳の中に残したまま貯めていました。人手不足のなか毎日遅い時間までくたくたになるほど働き、有給休暇を使おうとすると上司に睨まれる職場だったため、お金を使う気力と体力、余裕と時間がなかったのです。

 

気づけば28年で3,000万円になっていました。毎年誕生日月に送られてくるねんきん定期便にはあまり興味がなく、「こんなに保険料を払ってきたんだな」ぐらいにしか感じていませんでした。

 

いつもと違うねんきん定期便

「今年のねんきん定期便はいままでと違うな。60歳まで働いても老後の年金は月13万円、こんなもんなんだ……」Yさんはため息をつきながらねんきん定期便を眺めていました。

 

50歳になるとねんきん定期便には将来受け取れる見込額が記載されるのです。Yさんのねんきん定期便に記載されていた年金見込額は次のとおりでした。
 

出所:筆者作成
[図表]Yさんの年金見込額 出所:筆者作成

 

※老齢基礎年金は2024年度額(456月)。老齢厚生年金は差額加算を考慮せず。Yさんの平均標準報酬月額は32万円、456月で計算。

 

Yさんは低所得層。しかし、お金がかかるような趣味もなく、家賃は破格値の月3万5,000円。いままで華美な生活もしてこなかったため、年収を踏まえるとまあまあな額を貯めてこられたと思っていました。老後は、これまでどおりの支出額をキープし、お風呂が大好きなYさんはいつかテレビで見た全国各地の温泉を巡る旅をしたいというのがささやかな夢でした。Yさんの理想の老後は、年金とこれまで貯めてきた貯蓄があれば無理なく叶えられるものだと考えていたのです。

 

しかし、年金の見込み額を知ったことで不安がよぎります。年金だけでは独身で頼る身内もいなくなったYさんには心許なさそうです。定年まではあと10年という老後を見据えるタイミング。そんな折、ネットで偶然早期リタイアし、資産運用しながら悠々自適に生活している人のFIREの記事をみつけます。

 

「そうか、FIREという選択肢ががあるのか……」

 

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