売り手オーナーが飛びつくと危険な「ダイレクトメール」の例
以下、某オーナー経営者へのヒアリングに基づくDM(ダイレクトメール)の具体的事例を紹介します。いずれも倫理規則が施行された後のDMですので、倫理規則におけるルールへの配慮が見られる内容となっています。
弊社クライアントが、貴社のような優良企業様との資本提携を具体的に希望されております。
A社からの資本提携の提案について、ぜひご説明を差し上げたく存じます。
この度、東京に本社を構え、XXXの運営を行う大手事業グループより、事業拡大に際しての資本提携・事業承継ニーズをお預かりし、ご説明の機会をいただきたくご連絡を差し上げました。
弊社クライアント様より、資本提携の要望を受けております。今回、先方からの指名により直接お声がけをさせて頂いた次第です。以下、お相手企業様の概要です。(なお、同仲介会社からは2024年5月にも、違うクライアント企業からの依頼という形で別担当者から同内容のDMが届いたようです)
一見、具体的な買い手が自社のことを認識しており、名指しで仲介会社経由でアプローチしてきたのだと捉えがちですが、いずれの事例も「具体的な買い手が存在し、貴社との資本提携に関心を持っている」とは言及していません。言及されているのは、DM送付先企業と合致する買いニーズを持つクライアント企業がいる、ということだけです。
「先方からの指名により」という文言は非常にややこしいですが、買い手が対象会社を指名しているわけではなく、買い手が仲介会社と仲介契約を締結していることを意味しているものと考えられます。
買い手が実在する場合において、「貴社との資本提携に関心を持っているクライアント企業がいる」と営業することは、現行ルールでも構わないわけですから、曖昧な表現を使う必要はありません。こうしたDMに関しては、具体的な(DM送付先企業に関心を示している)買い手が存在しないパターンだと言ってよさそうです。
もちろん、仲介業者のいう「貴社”のような”事業に関心のある買い手」に実際にアプローチしてみたら、結果として買収に関心を持ってもらえた、というケースはありえると思いますが、いずれにしても飛びつくほどの情報ではありません。
「貴社との資本提携に関心を示している具体的な買い手がいる」と明言している手紙が届いた場合、その業者が倫理規則に反していなければ、具体的に貴社事業に関心を示している買い手がいるのかもしれません。少数派ではある印象ですが、M&A仲介会社が実際に買い手から了承をもらったうえで、対象企業へアプローチしているケースも存在します。
しかし、売り手オーナーにとっては、こうした具体的な提案に飛びつくことのリスクは、極めて大きいといえます。価格はもちろん、そのほかの条件についても、売り手にとって魅力的な条件を勝ち取ることが難しく、さらには売り手を守るために必要な契約書上の手立ても十分に行うこともできず、売り手が不利益を被りやすいのです。
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