特定の買い手の提案に飛びつかず、買い手は比較して決める
オーナー経営者の手元にM&A仲介会社から届く、たくさんのダイレクトメールのうちの大多数は、買い手の存在を示唆する内容でしょう。「貴社“のような”事業に」「関心を示す“可能性がある”企業がいる」といった記載がある場合、具体的には、貴社の買収を希望している買い手が存在しないと考えられ、飛びつくには値しない情報といえます。
一方で、「具体的に貴社との資本提携に関心がある企業がいる」ので一度会ってほしい、というアプローチがM&A仲介会社からあった場合、買い手の存在を偽ってはならないことを定める、M&A仲介協会の倫理規則に反していない限り、実際に買い手がいるのかもしれません。あるいは、買い手から直接事業売却の打診があったのであれば、買い手がその企業に一定の関心を持っていると考えられます。
そして、こうした打診があると、オーナー経営者としては、「自社を買いたいといってくる会社はどんなところだろうか」「なぜうちのような会社に関心を持ってくれているのだろうか」と、気になることでしょう。
最近では、「完全成功報酬」を謳ったM&A仲介会社も増えてきているため、会ってみて気に入らなければ辞めればいい、とオーナー経営者が気軽に買い手と会いやすい環境になってきている現状があります。しかし、仲介会社や買い手からの提案に応じて、事業売却を進めることが、売り手が事業売却で失敗する大きな要因となっています。
ここからは、オーナー経営者が、このような買い手の打診に乗る形で、事業売却を進めることへの具体的なリスクについて、解説していきます。
買い手の「競争環境」が作られない
オーナー経営者が、買い手の打診に乗る形で事業売却を進めることで、売り手にとって「魅力的な条件」が勝ち取れないというリスクが発生します。というのも、仮に、仲介会社経由で接触した場合でも、買い手から直接連絡がきた場合でも、買い手側は、売り手との交渉が「1対1」で行われていることを把握できる状況にあります。
そのような状況において、買い手は当然ながら「売り手がギリギリ応諾してくれそうなライン」を狙って条件を提案してきます。これでは到底、売り手にとって良い条件を買い手から引き出すことはできません。要するに、足元を見られやすい環境になってしまうのです。
売り手がよい条件を勝ち取るためには、買い手の競争環境を作ることが重要です。つまり、複数の買い手が手を挙げ、なんとかよい条件を提案して、売り手に選ばれたいと努力してくれる環境です。
1社が積極的にアプローチしてきたということは、ほかにも関心を持つ買い手が存在する可能性は、十分にあります。そのような関心を示す複数社の買い手を巻き込み、売り手にとって有利な環境を作っていくことが、事業売却を成功に導く大切なポイントです。そして、売り手のためにこうした環境づくりを支援するのが、売り手専属でM&Aを支援するファイナンシャル・アドバイザー(FA)の役割です。
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