感情と法定ルールのはざまで…
今回の事例では、他界した父が特に遺言書も残していなかったため、基本的には法定相続分でわけることになります。法定相続分は、現在相続人となるのが兄の誠一さんと妹の優子さんの2名だけですので、財産を半々でわけることになります。
自宅建物と土地が1,000万円の評価で、預金が500万円。つまり、遺産分割協議の対象となる財産は1,500万円あり、それを半分ずつわけることになるため、兄妹はそれぞれ750万円ずつ受け取る権利があります。
いかに父の介護を献身的に行っていたとはいえ、法律のルール上、妻の幸さんに相続する権利はありません。誠一さんも父の介護のために自分の財産を取り崩していたという事実があるわけでなければ、その分多くの遺産を受け取るということは難しいものです。
実際、要介護4と診断されていた父の介護費用は全額が賄えるというわけではありませんでしたが、公的介護サービスを利用することによって保険給付を受けていた部分が大きかったのです。しかしそうはいっても、親を自らの手で介護するという負担は、実際に経験した人にしかわからないものでしょう。幸さんが優子さんのことを「厚かましい女」呼ばわりしていたのも心情的には納得できるものがあります。
妹夫婦と分割することに…
結果、預金の500万円を受け取れればいいと考える優子さんの主張のほうが認められることとなったのでした。このため、心のうちでは父の遺産をアテにしていた北田さん夫婦は、これからも月20万円の年金で、日々の生活費を切り詰めて生活しなければならなくなりました。
こういった相続の問題は、生前に遺産分割のことをしっかり話合い、それに合った対策を行っていないことが原因で発生します。
生前に家族間で話し合いを行い、誰が父の世話をするのかなども踏まえ、父の意思で遺産分割について決定しておけば死後にこのようなトラブルが起きるのを防ぐことができます。そして、その決定にもとづいて遺言書を書いたり、生命保険を活用するなどの対策を行うことで、トラブルの事前措置となるでしょう。