ひどすぎる! 夫の死亡保険金〈1億円〉が「愛人」とその子どもに…書き換えられた「遺言」に絶句する妻に、弁護士が提示した対応策は?

吉岡 早月
ひどすぎる! 夫の死亡保険金〈1億円〉が「愛人」とその子どもに…書き換えられた「遺言」に絶句する妻に、弁護士が提示した対応策は?
(※写真はイメージです/PIXTA)

夫は生前、ほぼ全財産をはたいて相談者を受取人とする養老保険に入っていました。しかし数年前に別の女性と生活したいと言い出して家を出て行ってしまいます。遺言書には、死亡保険金の受取人を、その女性とその間にできた子供に変更する旨が書かれていました。本稿では、弁護士・相川泰男氏らによる著書『相続トラブルにみる 遺産分割後にもめないポイント-予防・回避・対応の実務-』(新日本法規出版株式会社)より一部を抜粋し、「死亡保険金の受取人が遺言で変更された場合の対応」について解説します。

「遺留分侵害額請求」という選択肢

4. 遺留分侵害額請求の可否を検討する

仮に、上記3.(2)のとおり、遺産分割協議において死亡保険金額が考慮されたとしても、あくまで具体的相続分を計算する際の計算要素として考慮されるのみであり、死亡保険金が遺産分割の対象となるわけではありません。そのため、遺産の全てを私が相続することとなったとしても、遺産が少なければ遺留分を下回ることがあり得ます。

 

また、死亡保険金の受取人を夫の子に変更する旨の遺言が残されている場合、同時に全ての遺産を夫の子に相続させる旨の遺言がなされていることも考えられます。このような場合、夫の息子が多額の死亡保険金の請求権を取得したことを捉えて、夫の子に対し遺留分侵害額請求ができるかは検討の余地があります。

 

特別受益と遺留分侵害額請求との関係について、判例によれば、相続開始よりも相当以前にされたものであって、その後の時の経過に伴う社会経済事情や相続人など関係人の個人的事情の変化をも考慮して遺留分侵害額請求を認めることが相続人に酷であるなどの特段の事情のない限り、特別受益が遺留分侵害額請求の対象となることを肯定しており(最判平10・3・24民集52・2・433)、その後平成30年改正民法により、相続人に対する贈与について、遺留分侵害額請求の対象となる期間が明定されています(民1044①③)。

 

したがって、平成16年決定において、同決定がいう「特段の事情」がある場合、死亡保険金の請求権が特別受益に準じるものとして持戻しの対象となるとされていることからすると、遺留分侵害額請求の場面においても、特別受益に準じるものとして遺留分侵害額の算定においてその価額を考慮し、死亡保険金請求権を取得した相続人に対し遺留分侵害額請求ができるとするのが素直な理解です(名古屋高判平29・4・20(平28(ネ)973)参照)。

 

そのため、本事例でも、平成16年決定がいう「特段の事情」が認められるのであれば、夫の子に対する遺留分侵害額請求を積極的に検討すべきです。

 

 

〈執筆〉
吉岡早月(弁護士)
平成23年 弁護士登録(東京弁護士会)
令和3年6月 個人情報保護委員会事務局参事官補佐(~令和5年5月)


〈編集〉
相川泰男(弁護士)
大畑敦子(弁護士)
横山宗祐(弁護士)
角田智美(弁護士)
山崎岳人(弁護士)

※本連載は、相川泰男氏らによる共著『相続トラブルにみる 遺産分割後にもめないポイント-予防・回避・対応の実務-』(新日本法規出版株式会社)より一部を抜粋・再編集したものです。

相続トラブルにみる 遺産分割後にもめないポイントー予防・回避・対応の実務ー

相続トラブルにみる 遺産分割後にもめないポイントー予防・回避・対応の実務ー

相川 泰男

新日本法規出版株式会社

◆遺産分割時やその前後に想定される具体的なトラブル事例を分類・整理しています。 ◆①発生の予防、②更なる悪化の回避、③適切な対応という視点で道筋を示しています。 ◆「チェックポイント」により、調査・確認、検討す…

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