「遺留分侵害額請求」という選択肢
4. 遺留分侵害額請求の可否を検討する
仮に、上記3.(2)のとおり、遺産分割協議において死亡保険金額が考慮されたとしても、あくまで具体的相続分を計算する際の計算要素として考慮されるのみであり、死亡保険金が遺産分割の対象となるわけではありません。そのため、遺産の全てを私が相続することとなったとしても、遺産が少なければ遺留分を下回ることがあり得ます。
また、死亡保険金の受取人を夫の子に変更する旨の遺言が残されている場合、同時に全ての遺産を夫の子に相続させる旨の遺言がなされていることも考えられます。このような場合、夫の息子が多額の死亡保険金の請求権を取得したことを捉えて、夫の子に対し遺留分侵害額請求ができるかは検討の余地があります。
特別受益と遺留分侵害額請求との関係について、判例によれば、相続開始よりも相当以前にされたものであって、その後の時の経過に伴う社会経済事情や相続人など関係人の個人的事情の変化をも考慮して遺留分侵害額請求を認めることが相続人に酷であるなどの特段の事情のない限り、特別受益が遺留分侵害額請求の対象となることを肯定しており(最判平10・3・24民集52・2・433)、その後平成30年改正民法により、相続人に対する贈与について、遺留分侵害額請求の対象となる期間が明定されています(民1044①③)。
したがって、平成16年決定において、同決定がいう「特段の事情」がある場合、死亡保険金の請求権が特別受益に準じるものとして持戻しの対象となるとされていることからすると、遺留分侵害額請求の場面においても、特別受益に準じるものとして遺留分侵害額の算定においてその価額を考慮し、死亡保険金請求権を取得した相続人に対し遺留分侵害額請求ができるとするのが素直な理解です(名古屋高判平29・4・20(平28(ネ)973)参照)。
そのため、本事例でも、平成16年決定がいう「特段の事情」が認められるのであれば、夫の子に対する遺留分侵害額請求を積極的に検討すべきです。
〈執筆〉
吉岡早月(弁護士)
平成23年 弁護士登録(東京弁護士会)
令和3年6月 個人情報保護委員会事務局参事官補佐(~令和5年5月)
〈編集〉
相川泰男(弁護士)
大畑敦子(弁護士)
横山宗祐(弁護士)
角田智美(弁護士)
山崎岳人(弁護士)