(※写真はイメージです/PIXTA)

収入が減ったら、そのぶん支出を減らす……当たり前のように感じますが、生活水準を下げることは決して簡単ではありません。上場企業の重役であった夫を亡くした“元セレブ妻”Aさんの事例をもとに、資産に余裕があっても起こり得る「老後破産」の恐ろしさと、その対応策をみていきましょう。牧野FP事務所の牧野寿和CFPが解説します。

破産回避のため…Aさんは月にいくらまでなら使える?

では、Aさんの家計を改善するためには、毎月いくらで生活をすればいいのでしょうか。

 

たとえば、単身無職の平均77.0歳女性の、税金や社会保険料を除いた、毎月の平均消費支出額は14万8,028円で、Aさんの現在の年金受給額とほぼ同じです。
※総務省「家計調査(家計収支編)男女,年齢階級別1世帯当たり1ヵ月間の収入と支出(単身世帯)」より

 

平均消費出額の住居費1万2,849円と光熱水道費1万4,417円は、Aさんもほぼ同額でした。しかし、食料費の3万9,362円や被服及び履物の4,054円は、Aさんは10倍以上の月もあり、この支出がずば抜けて高くなっています。

 

従って、生活水準を急激に下げていきなり年金だけで生活することは難しいでしょう。しかし、食費や外食、被服及び履物の購入費を抑えて、毎月30万円以下の生活を送ることができれば、100歳を過ぎても貯金は十分に残る計算です。

 

贈与税を払わずに「生前贈与」する方法

またAさんは、自身の預金について「手元に大金があるとまた知らず知らずに使ってしまいそうで怖いので、子どもたちにお金をあげる良い方法はないでしょうか」と筆者に尋ねました。

 

そこで筆者は、現在Aさんが所有している銀行預貯金のうち4,000万円を、現金で2,000万円ずつ、相続時精算課税制度を使って生前贈与をする提案をしました。

※贈与者(Aさん)から受贈者(CさんとDさん)に2,500万円までは、贈与税を納めずに生前贈与ができ、贈与者が亡くなった時、その贈与財産の贈与時の価額と相続財産の価額を合計した金額から相続税額を計算し、一括して相続税として納税する制度。

 

その資金はこれから大学受験を控えた孫の受験や学費などに使えて、子どもたちの家計の助けになります。

 

Aさんは「住宅型有料老人ホーム」への入居を検討

さらに、Aさんは今回のことで将来についていろいろと考えたようで、「実は最近、この部屋がいくらで売れるか不動産業者に調べてもらったら、1億円以上で売れると言われたの。だから売ったお金で老人ホームに入ろうかと思っていて」と話しはじめました。

 

Aさん「夫との思い出が詰まったこの部屋を売るのは悲しいけれど、ひとりで暮らすには広すぎるし、認知症や介護の状態になって子どもに迷惑をかけたくないの。それにいまは、マンションのような老人ホームもあるのよ」

 

Aさんはすでに2,3ヵ所の施設を下見したそうです。その結果、気に入った施設の入居一時金が800万円から1,000万円ほど、月額の利用費が食事代込みで27万円前後ということでした。この費用感であれば、子どもたちに4,000万円を生前贈与してもAさんの破産の心配はありません。

 

CFPの筆者からの助言

筆者は、売却もひとつの方法ですが、マンションは売却せずに貸し出して、その家賃を有料老人ホームの費用にする提案もしました。

 

また、Cさん家族がAさんのマンションに引っ越す案も出ましたが、住居のことは急いては事を仕損じると、Cさんの子どもが大学に入学するまでは、Aさんはこのマンションに住み、Cさん家族がAさんを見守ることになりました。

財布のひもは息子に任せて“第2の人生”へ

後日、Aさんが筆者の事務所に来訪。近況を話してくれました。筆者が提案した子どもたちへの生前贈与のほか、子どもたちと話し合いCさんが「代理人(キャッシュ)カード」作成し、Aさんの口座を管理してくれることになったそうです。

 

Aさんは「いま思えば、夫を急に亡くした寂しさを散財でごまかしていたんだと思います。今回の相談で自分を客観的にみることができたことは大きかったです。まだ完全に吹っ切れたわけではありませんが、少しずつ身の丈に合った楽しみを見つけていきます」と話してくれました。

 

心配していたお金の管理は息子に任せて、Aさんはこれから幸せな“第2の人生”を送っていくことでしょう。

 

 

牧野 寿和

牧野FP事務所合同会社

代表社員

 

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※プライバシー保護の観点から、登場人物の情報を一部変更しています。

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