「相続」が心に重くのしかかる
対策によって気持ちが滅入っている。すべての話が「智也の相続」であり、提案にくるさまざまな関連業者も大概同じような内容だ。
話をする相手も娘であるが、相続対策の主体はどちらなのであろうか。
――あくまでも相続対策を始めることにしたのは私であり、どのように進めるか決断するのも私であると思っている。それぞれ協力してくれている会社も営利法人にあることから、なにか形にしないといけないのはよくわかるが、私の意向に寄り添うような提案がなぜできないのか、と思うことが多い。
私としては、寿命をまっとうしたいと思っているし、孫の成長も見届けていきたい。可能であれば曾孫の顔も見たいと思っている。「自分が亡くなる」という言葉を連日のように聞き続けることに堪えられなくなってきている。
最近では「相続」という言葉も聞きたくないし、目にも入れたくない。通院先の担当医からも最近顔色がよくないので、心労が溜まっているのではないかとの指摘を受けることが増えてきたし、リハビリに通うこともだんだんと億劫になってきた。
先日はついに担当の銀行員に向かって「自分の死の話を無神経にされて大変腹が立っている。失礼である」と声を荒げてしまった。突然怒鳴られた銀行員は、とても驚いた顔をしてその後、終始黙ってしまった。大人気ないことをしてしまったと反省したが、自分の気持ちを伝えたことで少しスッキリもした。
相続対策で直面する「失礼な〇〇」
「失礼な〇〇」には、さまざまなものが含まれる。
家族であり、士業などの専門家であり、ハウスメーカーであり、不動産業者であり、金融機関であり、そのほか多くのものが含まれる可能性がある。ついつい成果を求めて後継者ばかりに接触をしたり、提案を行ったりと当事者が蔑ろにされていることがあるのではなかろうか。
「死」について扱うのは非常にデリケートな問題であり、よかれと思って進めていることが相手にとっては「失礼なこと」として捉えられていることもある。
相続の関係者は、
・言葉を柔らかく置き換える
・関連する当事者全員の顔をみて提案を行う
・家族それぞれの意向に相違がないか確認を行う
・焦らずに時間を空ける
など相手方の心についても気にかけながら話を進めることが望ましいと思う。
一方で、生前の適切な準備によってその後の円滑な承継につながることは間違いない。提案を行う側は、特に資産がある場合には依頼者(本件では横井智也氏)の気持ちに寄り添って計画的に進めていくことが大切である。あくまでも、依頼者が最も重要な当事者である。
小俣 年穂
ティー・コンサル株式会社
代表取締役
<保有資格>
不動産鑑定士
一級ファイナンシャル・プランニング技能士
宅地建物取引士
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