(※写真はイメージです/PIXTA)

春になり、3月末で定年退職した人にとっては、退職金の運用方法などが気になる時期ではないでしょうか。特に2024年からの「新NISA」は、3月に日経平均株価が4万円を突破したこともあり、大きな注目を集めました。本記事では、Aさんの事例をとともに、特にNISAにおける退職金運用の注意点をFP1級の川淵ゆかり氏が解説します。

退職金が半減!老後の計画が大きく変わってしまった

都内に住む5年前に定年退職したAさん(現在65歳)は、退職金を2,000万円近く受け取りました。

 

Aさんは生真面目で責任感の強い性格です。両親はまだ健在で、いまのところは元気ですが、介護状態になった場合、長男である自分が面倒を見ないといけない、と考えていました。もし、介護でお金が足りなくなった場合は自分が出さなければ、とも考えていました。将来の自分たちの老人ホームへの入居費用も確保したい、とも思っており、Aさんにとって退職金は非常に大事なお金でした。

 

そのため、定年退職の半年ほど前から、退職金を受け取ったらどこに預け入れようか悩んでいました。しかし、長引く超低金利で、定期預金などに預けていても増えないことはわかっています。マネー雑誌等で、複利計算のシミュレーション結果を見たり、「もしインフレになったら、お金の価値は下がる」といった記事を見たりしたAさんは不安になります。

 

「年金は月20万円受け取れるが、現役時代の収入と比較すると心許ない。ちゃんと運用して増やさなければ、大事な退職金は目減りしていってしまう……」と感じるようになりました。しかも将来受け取れる年金は思っていたよりも少ない金額になりそうです。

 

銀行員の勧めるまま退職金を預ける

そのようななか、給与振り込みで利用している銀行の担当者から「Aさんは間もなく定年退職ではないでしょうか。おめでとうございます。老後の資金についていつでもご相談に乗りますよ」と連絡がありました。投資経験ゼロのAさんは、それなら一度話を聞いてみようと、銀行に出向いて説明を受けることにしました。

 

担当の男性は、話しやすい優しい口調の人で、これからの投資の必要性などをわかりやすく説明してくれました。しかも、話をすすめていくと、担当者はAさんと同郷だということもわかりました。親近感を感じ、会って1日で信用できると思ってしまったAさんは、退職金の運用をこの人に任せることに決めてしまいます。

 

しかし、当時の改正前のNISAは年間120万円までで、投資の上限も600万円だったので、銀行の担当者は、「増やしたいなら一刻も早く投資は始めたほうがいいですよ。税金はかかりますが、制限のない口座も作って投資しましょう!」との説得にAさんは納得し、課税口座も持つことにしました。

 

すっかり信用してしまったAさんは、退職金まるごととほかにも定期預金の500万円までもその銀行の担当者に言われるままにNISAによる投資を行い、その後、何度も買い増しや買い替えをしていくことになります。手数料の金額もよく把握できず、一部で成果が出たものもありましたが、新型コロナの時期には、評価額は約半分にまで落ちこんでしまいました。

 

――NISAで退職金が溶けるなんて……。

 

ショックを受けたAさんが銀行に電話をすると、担当者は別の会社に出向してしまった、とのことで、すでに連絡が取れない状況になってしまっていました。

 

「『資産所得倍増計画』にうまく乗せられたのかな? 『倍増』どころか『半減』ですよ。もとに戻すのに何年かかるかわかりません。そもそも戻るかどうか。このままでは老後破産するかもしれない……。不安で不安でもう生きていけないですよ。精神的にも参ってしまって、体調も崩してしまいました。こんなことなら定期預金に預けておいたほうがまだよかったですよ」と、Aさんは言います。

 

退職金など大きな金額を運用される方もいらっしゃいますが、複数の投資先にわけて投資するだけが分散投資ではありません。投資の時期も分散していく必要があります。

 

また、Aさんのように短期間での売買の繰り返しは、新しい投資信託をまた買い直させることで、銀行が販売手数料などの収益を何度も得ることになります。投資をしても、必ず価格が上がるとは限りません。しかも運用のプロでもなかなか予測は難しいものです。

 

投資とは、それだけ難しいものなのです。たとえ価格が下がっても、価格の回復を待てるように、長期の期間で運用をし続けるのが基本になります。

 

 

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