「業績不振」を世の中や他人のせいにする経営者
〈STEP 1〉経営者が「危機意識」を持つ
私のところに相談が来るのは基本的に、業績の良くない建設会社や建設関連企業である。それも切羽詰まって、末期的な状況のところが多い。また、最近は各社のメインバンクから「何とかしてほしい」と依頼されるケースも増えてきている。引き受けた場合、私は経営者の考え方やこれまでの経緯を確認するため、経営者に「なぜこうなったと思いますか?」と原因について尋ねる。
そして、過去3年分ほどの決算書を見せてもらう。その中の売掛金や未成工事支出金、純利益の推移などを見れば、粉飾しているかどうかはすぐに分かることが多い。経営改善に取り組むにあたって、まず必要不可欠なのは経営者の危機意識だ。経営者が業績不振を世の中や社員、自社の顧客など他人のせいにしていては、経営改善などできるはずがない。
同じ状況でも、健全な経営を続け黒字体質の建設会社は多く存在している。そうした会社と自社は何が違うのか。社員や環境のせいにするのではなく、真摯に経営者としての自分自身に原因を求め、反省することが必要だ。「このままではだめだ」という危機意識を持ち、自分が変わることを決意しなければならない。「どうしたらいいか?」を本気で考える必要がある。
精神論を言っているのではない。経営者の意識改革が中途半端な状態のままでは、社員にも取引先にも経営再建に協力しようというモチベーションが生まれない。だからこそ、経営不振を自分の責任としてとらえることが出発点となる。その姿勢は必ず社員や取引先、そして取引銀行などにも伝わる。
【図表】 経営改善の出発点
正しい数値やデータで自社の「本当の状況」を知る
経営改善に取り組むにあたっては、正しい数値、データの確認が必要である。具体的には、直近3期分の決算書のベースとなる現場ごとの利益が分かる「物件別採算明細」から、粗利益総額、赤字累計額、粗利益率の実態を調べ、粉飾されている数値を可能な限り本来の数値に戻す。
新たな目標を追いかける前に、やはり自社の本当の状況を知らなければならない。数字の操作や大規模な粉飾を数年にわたり行っている場合、貸借対照表と損益計算書を本来の数字に戻すと凄まじいことになるケースもある(特に貸借対照表)。それをそのまま金融機関などに渡すと、それはそれで大変なことになる。
しかし、社内上の数字としてだけでも、実態に戻さなければならない。それも含めての経営改善である。そこから逃げては話にならない。金融機関も、うすうすは気が付いていることが多い。分かっていて黙っていることもあるのだ。
では、金融機関からの協力は得られず、黙って騙(だま)し続けるしかないのか。そんなことはない。協力を得られない金融機関もあるだろうが、経営者が反省をし、覚悟を決め、本気で改善に取り組む姿勢を示した場合、協力してくれる金融機関は必ずある。銀行も近年、コンサルティング機能の強化に努めている。経営を改善して利益が出る体質に変わり、少しずつでも元金返済をしていけるプランを提示できれば、みすみす倒産させるより、銀行にとってもメリットがあると考えてくれる場合もあるのだ。
経営者一人で悩み、いままでのやり方を続けるのではなく、第三者それも実績のある専門家に相談して具体的な指示を受けたほうがいい。実際、私がサポートして借入金の元本を一定期間据え置きしてもらい、それから短期間(1〜2年)で健全経営を実現した建設会社はいくつもある。
いずれにしても、その場合もあくまで経営者の危機意識が前提になるのである。