前回は、有名人のための「賃貸事業に詳しい税理士」の選び方を説明しました。今回は、不動産投資で「節税テクニック」に頼り切ってはいけない理由を見ていきます。

納税をコントロールする方法は「節税」だけではない

川崎:さて、不動産による資産形成は「不動産投資」といわれていますが、実際には「不動産賃貸事業」を進めていくというわけです。

 

その方向性としては、金融機関からの融資による資金調達を行い、物件を複数購入していくということです。そのためには税金をしっかり払って、決算書の内容をよくしていくことと、最終的には事業を継いで、相続をうまくしていく。それが大事です。

 

ジュン:税金は支払うものなのですね!

 

タカ:僕はできる限り支払いたくないと考えていました。

 

川崎:自営業の方の中では税金を払いたくないあまり、強引に毎年赤字申告されている方もいます。私はそれはおすすめしません。あまり乱暴な節税はするべきではありません。今は税務署のチェックもかなり厳しいですからね。

 

やはり不動産を事業としてやっていくわけですから、「その事業が発展するような形でやる!」ということだと思います。

 

ジュン:それが基本なのですね。

 

川崎:税率は100%ではありません。仮に30%の税率であれば所得のうち70%に税がかかりません。つまり長くやっていくには、実は税金を払ったほうが手元にキャッシュが絶対に残りやすいものです。どうも皆さんは、「税金が出ていくのは少なければ少ないほどいい!」と、間違った理解をしている人が多い気がしますね。

 

タカ:すっかり誤解していました。

 

川崎:そうではないのです。税は所得の全部を持っていくわけではないのです。たとえ税金を払ったとしても、黒字で経営していれば必ず手元に残ります。それがどんどん累積し現金預金が増えていきます。

 

事例をご紹介します。業種は不動産貸付業とまったく違いますが、少人数の従業員がいる会社を経営されていた社長さん。仮にA社長とします。

 

A社長は徹底していて、常に会社の税金を払っていたわけです。そうすると、3月末の決算なのですが、預金だけでも25億円を超えています。それが結果なのです。

 

一切節税していなかったにもかかわらず、せっせと税を納めていたら、そんな結果になりました。ところが、実はその後日談がありまして。その株主の方が亡くなってしまったら、株価がすごく高すぎて、とんでもない相続税を払うことになりましたが。

 

今、様々な節税テクニックがあります。キャッシュアウトが伴う節税では手元の現金がなくなって、結局お金が手元に残らないことが結構多いと思います。

 

ヨシト:いたずらに節税にばかりとらわれるのはよくないのですね。

 

川崎:不動産の絡みで私の経験をお話しします。バブル時の話ですが、麹町郵便局の裏側にBさんの住む借地があったのです。わずか20坪くらいの借地が5億円くらいで売れた時期があったのです。

 

そのときには「買い替え」という制度があったので、買い替えをしてしまえば課税の繰り延べができるため、Bさんにはそれをおすすめしたのですが、「いや、そうしたくない!」と断固として従いませんでした。

 

Bさんはお婆ちゃんだったのですが、考えてみたら5億円の売り上げのうち、税金が20%でしたが、1億円を払ったとして、4億円が手元に残りました。もしも買い替えをしてしまったら、ほとんど手元にキャッシュが残りません。

 

どっちが良かったかといえば、結局は4億円の現金を残したことです。Bさんはしばらくして亡くなられましたが、息子さんから「ありがとうございました!」と感謝されたのを今でもよく覚えています。

 

ヨシト:なるほど。1億円の税金を惜しんで土地を買い替えしていたら、バブル後に暴落していた可能性があります。

 

川崎:地主さんも同じで更地を相続すれば多額の税金がかかるからと、新築アパートを建てたものの、経営がうまくいかず、結局、手元にお金が残らないどころか、借金だけを残してしまうケースがよくあります。

 

税金に対して「払いたくない!」と拒否反応を示す人が多いですが、むしろ、しっかり税金を払ったほうがよいと思います。そのためにも法人にしておくほうが好ましいでしょう。理由は個人に比べて税率が低いですし、強引な節税テクニックを使わなくても、納税をコントロールする方法がたくさんあるからです。

オーナー自身による財務内容の把握が重要

ジュン:融資を受けるためにはしっかり納税していく必要があること、また、そのためには法人が有効なことが理解できました。融資を受けるために他に条件はありますか?

 

川崎:オーナー自身が財務内容を把握していることだと思います。先ほど、帳簿の話でも少し出ましたが、不動産の場合は家賃収入が決まっているので、通常の商売に比べて非常にオーナー自身が管理はしやすいと思いますよ。

 

ジュン:それでは税理士さんに頼むにしても、帳簿を自分で付けて、ある程度は自分が管理する形で行うのがよいでしょうか。

 

川崎:そのほうがいいですね。なぜかというと、銀行は、自分の会社の数字を把握している社長さんに融資したいと思っています。

 

ヨシト:それゆえに最初から丸投げしない方がいいということですね。

 

タカ:耳が痛いです(笑)。

 

川崎:規模が大きくなれば全部を見るのは難しくなるかもしれません。作業として丸投げは可能かもしれないけれども、その内容を把握するなど、自分の関わりは大事ですね。例えば減価償却をどうするのか、損金を何年間にわたって繰り延べるのか、という決断も自身でしなければいけませんから。

 

ヨシト:肝に銘じます。

 

川崎:事業における判断は数字を把握していない限りわからないでしょう。丸投げする方は、つまり税金のためにやっているだけです。それではまったく経営に役立ちませんよ。

 

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本連載は、2016年9月9日刊行の書籍『「有名人」のための資産形成入門』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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