前回は、不動産賃貸業の法人化によるデメリットを説明しました。今回は、不動産賃貸業の法人化でポイントとなる「減価償却費」のコントロール方法を見ていきます。

「法定耐用年数」に従い、建物部分を徐々に経費化

川崎:その他に、個人で不動産を取得した場合と法人で取得した場合でどのような違いがあるのか見ていきましょう。

 

大きなポイントとなるのが「減価償却費」です。建物には耐用年数があります。そして、税法では減価償却費を計算するために、その建物の構造によって耐用年数が決められています。これを法定耐用年数といいます。

 

<法定耐用年数>

 

●木造22年

●S造(鉄骨造)27年〜34年※骨格材の厚さによって変わります

●RC造(鉄筋コンクリート造)47年

 

この耐用年数に従って、建物金額を徐々に減らしていく経費が減価償却です。

 

ジュン:では、土地は減価償却しないのですか。

 

川崎:減価償却は「モノ」に対して行われます。時間が経っても資産価値が減らない土地については、減価償却はありません。この減価償却は複雑な計算式に基づいて算定され、その扱いは個人と法人で大きく異なってきます。

 

個人は「強制償却」、法人は「任意償却」と呼ばれ、個人の場合、算定された減価償却費の全額を物件の帳簿価額から強制的に減らさなければなりません。従って、その年の減価償却費を必要経費に計上しない場合、帳簿価額だけが減っていくだけで償却費の無駄になってしまいます。

法人は減価償却の活用で赤字・黒字をコントロール可能

タカ:減価償却というのはお金が出て行かない経費ということですよね。経費が大きくなって税金が安くなっていくのでいいと思うのですが。あえて減価償却費を計上しないというのはどういうことですか。

 

川崎:そういう見方をされる方もいます。たしかに黒字であれば税金を減らすことができますが、個人の場合、赤字であっても同様に計上しなくてはいけないのです。一方、法人の場合には、減価償却費の枠内であればいくら計上してもよいことになっています。

 

ジュン:だから「任意」なのですね。

 

ヨシト:0円にしてしまってもいいのですか。

 

川崎:はい。0円でも可能ですし、中途半端な金額でも大丈夫です。例えば、減価償却費の計上前の利益が500万円、減価償却費の枠が600万円あったとします。その場合、減価償却費を全く計上せずに、税引前利益を500万円にすることができますし、逆に減価償却費を全額計上して、税引前利益をマイナス100万円にすることも可能です。

 

黒字決算にしたいけれど、税負担は大きくしたくない・・・ということでしたら、減価償却費を450万円計上して税引前利益を50万円とすることもできます。

 

タカ:赤字にするのも黒字にするのも自由ということですか!?

 

川崎:その通りです。個人であれば強制償却されますが、法人であれば任意償却でコントロールができます。つまり、合法的に利益を調整することが可能になるのです。そのため、支払う税金を調整しながら、賃貸事業を拡大させるために、融資に有利な決算書をつくることができます。

 

もっともこのような手法は、中小企業会計要領では禁止されていますので今ではほとんど見なくなりました。

本連載は、2016年9月9日刊行の書籍『「有名人」のための資産形成入門』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

「有名人」のための資産形成入門

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安次嶺 格

幻冬舎メディアコンサルティング

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