介護の話題は必須。避けては通れない
私は、これまでの日常業務を通じて、将来の相続や介護に関する家族間の対話の必要性を感じてきました。そのため、相続に備えて事前に家族で話し合う場を「家族会議」という言葉で説明しています。本文中で使用される「会議」「家族会議」という用語は、このことを指しています。
家族会議では、介護の話をする必要があるでしょう。『高齢社会白書(2023年版)』によると、75歳以上の約23%が、要介護認定を受けているからです。
まずは、自身に介護が必要になったときに住む場所(不動産)の希望や、生活費(預貯金)の見通しを考え、整理しておかなければなりません。死後のことを考えられても、自分が介護される姿を想像できる人はあまり多くないでしょう。しかし、考えておかなければならない大きな問題なのです。
①死ぬまで自宅で過ごしたいなら
相続に関する業務に携わった経験から、最後まで自宅で過ごしたいと考える人がもっとも多い印象です。
ただ、最後まで自宅で生活するためには、室内の段差を減らす、手すりをつける、トイレを改造するなどの工事のほか、1階ですべてが完結するような生活環境を整えるなど、リフォームの必要があるかもしれません。どこまで費用をかけられるのか、手元の資金と先々の生活費とのバランスを見ながら検討します。
また、そもそも家族で介護ができるかの検討も必要です。要介護度が上がれば介護サービスに支払う金額が増えます。
たとえば、介護保険で自己負担1割として、限度額までサービスを利用すると、要支援1の場合は自己負担が5,000円程度、要介護5の場合は3万6,000円程度となります。限度額を超えた分は全額自己負担となります。
なお、65歳以上で年金とその他の所得が一定の金額を超えると、自己負担割合が2~3割と増加します。
②施設に入居するなら
「老老介護」や、近くに頼れる人がいない環境の場合は、施設を利用することも考える必要があります。
ご自身あるいは家族の運動機能の状態、要介護の段階、認知機能の状態などによって入所できる施設や受けられるサービスは異なり、費用もさまざまです。
現実的な問題としては、サービス面、費用面で人気となる施設だと、入居を希望してもすぐに入れないことがあります。家族会議で話し合うのは、入居した場合のトータルコスト、受けられるサービスの内容、本人の希望にかなうかどうかなどです。
とくに費用は、手持ちの預貯金+年金などでまかなえるのか、自宅を処分する必要があるかなど、シミュレーションが必要です。自宅の処分となれば、話が大きくなりますから、家族の意見を聞いてみる必要があるでしょう。判断に迷う場合には、専門家に相談してみるのも手です。
③結局、誰が面倒をみるのか
本人の希望をふまえてどこで最期を迎えるかを検討し、各種介護サービスを最大限利用するとしても、最終的には家族が面倒をみなければなりません。
日常の世話を誰が行うのか、費用が不足したときに負担できるのかなど、できれば、具体的な金額をもとに家族で話し合いましょう。
家族にとっては、金銭負担と同じくらい重要な議題となります。
自分で葬儀の段取りを組むことも可能
亡くなったときにお世話になる葬儀社ですが、くわしいことはわからないという人が多いと思います。最近はネットやテレビでCMがたくさん流れますし、葬儀を特集した雑誌も見かけます。それだけ世の中の関心が高まっているのでしょう。
葬儀費用が思ったより高くついたとか、突然のことで葬儀社を比較・選択する余裕がなかったという声もよく聞かれます。
各地の葬儀場では、生前見学会のようなイベントを開催していますので、これらを活用しましょう。比較するポイントは、①基本料金に含まれる内容、②オプションの内容と価格、③自分の希望にかなう葬儀(予算や内容)ができるか、④施設や担当者の雰囲気などです。
死亡直後で家族の判断もままならず、葬儀社に言われるまま行った結果、費用が高額になることも。準備をしておけば、不要な出費を減らすことができます。
私が経験したケースでは、余命宣告を受けたのち、「思いどおりの葬儀にしたい」と、ご自身で葬儀社を決めて打ち合わせを重ねた方がいました。
死亡時の搬送方法、祭壇のグレードや香典返し、葬儀中にかける曲や演出などすべて決め、葬儀を迎えました。搬送から初七日まですべて滞りなく行われたうえ、希望どおりの内容で、予算も想定のとおりでした。やろうと思えばできるのです。
太田 昌宏
司法書士・行政書士
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