総支配人から「戻ってこないか」
基礎がしっかりした山本さんは、地元雇用のベテラン従業員とも上手に付き合うことができました。ベテランの従業員のなかには、若い派遣社員に厳しい人もいましたが、山本さんは「先輩たちを楽にできるよう、仕事に徹しよう」と懸命に働きました。
すると、厳しかったベテランの女性たちが少しずつ優しい言葉をかけてくれるようになり、最終的には毎朝パンやおにぎり、牛乳などを差し入れてくれるようになったのです。
山本さんは「コミュニケーションを円滑にし、1つのチームとしてお客様のために同じ方向を向いて働くことが本当に楽しかった」と話します。
山本さんは高校生のとき、生徒会長を経験していました。「旅館の仕事は、協力してイベントを成功させた高校の生徒会と同じような充実感や達成感を得られた」そうです。
契約期間が終わったため山本さんは後ろ髪をひかれる思いで実家に帰り、猛勉強の末に司法試験に挑みました。しかし、結果は不合格。
そんなとき、リゾートバイト先の社長から電話がありました。「失礼を承知でいうが、もし試験がダメだったなら、うちに戻ってこないか」というのです。「あなたは仕事の能力が高く、同僚ともうまくやっていける。将来、当社の幹部になってもらいたい」と高く評価してくれました。
社長はさらに、山本さんが弁護士になった場合と自社の正社員になった場合の給与がどう違うかも調べてくれていました。旅館に就職した場合、順調に出世できれば、いわゆる「イソ弁(居候弁護士)」の月収にも届くとわかり、安心して働けるようになりました。
リゾートバイトの経験でチームを引っ張る
正社員になってからは、山本さんは持ち前のバイタリティーをいかしてチームを引っ張っていきました。周囲の評価も高く、4年目には営業支配人に、8年目には総支配人にまで上り詰めました。
「リゾートバイトの経験で、従業員全員の気持ちがわかるようになった」「アルバイトも派遣社員も正社員もみんな戦力。チームとしてお客様をもてなしたい」。
総支配人として旅館を切り盛りする山本さんは、リゾートバイトの経験が現在もいきているといいます。従業員の福利厚生や待遇改善に努めるのも、現場の経験があるからです。
山本さんは「今後、熊本県以外に新たな温泉旅館を開業したい」と語ります。2016年の熊本地震を経験し、「リスクを分散することがすべての従業員の雇用を守ることにつながる」と考えたからです。
「リゾートバイトで視野が広がり、新しい価値観が生まれた」という山本さん。今後も老舗旅館に新風を吹き込み、チームを引っ張っていくことでしょう。
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