(※写真はイメージです/PIXTA)

自信が低い人についてまわる「不安」から逃れたいと思ったことはありませんか? しかし、『「自信」がないという価値』(河出書房新社)の著者であるトマス・チャモロ=プリミュージク氏は、「自信のなさは、将来の成功のために重要な役割を果たしてくれるだろう」と、言います。自信のない自分を認めそれをアドバンテージとできるようにするため、自信のなさのポジティブな面をみていきましょう。

進化上の利点がある「うつ病」

心理療法士のエミー・ガットは、うつ病は身の回りにある本物の問題に対処する過程で生まれたという説を唱えている。注意力やエネルギーのすべてを目の前の問題に集中させるために、それ以外の感情をシャットアウトしているというのだ。

 

うつ病というと、不快な経験や感情などから逃避していると思われがちだが、実はその正反対だったのである。

 

イギリスの進化心理学者、ダニエル・ネトルによると、元々うつの傾向がある人は、自分に厳しく、その結果として競争力が高くなるという。「ネガティブな傾向が強い人は、理想の状態に到達するために努力し、悪い結果を避けるために努力する。その結果、進化のうえで生存に適した状態に近づけるのだろう」とネトルは言う。

 

うつ病には進化上の利点があるというネトル博士の主張は、他の数多くの研究でも裏付けられている。うつの傾向がある人は、たいてい自分を正確に評価できるー心理学の世界で「抑うつリアリズム」と呼ばれている現象だ。

 

この現象についての調査は以前から行われていて、たとえば抑うつ傾向のある人は、自分の評判、能力、社会的地位を、抑うつ傾向のない人よりも正確にとらえている。同じような調査は何度も行われているが、結果はいつも同じだ。特に、やや悲観主義の傾向がある人ほど、自己評価が正確になるという。

 

つまり、自信の低さとは、一種のリスクマネジメント戦略だということだ。過去、現在、未来における自分の能力を正確に把握し、リスクに備えているのだ。自信の低い人の自己評価は、周囲からの評価とだいたい一致しているが、完璧主義がすぎる場合には周囲の評価よりもかなり低くなる。

 

とはいえ、たとえ自己評価が低すぎるケースでも、自信の低さはアドバンテージになる。それは、損失を最小限に抑えられるからだ。

 

適度な悲観主義は、環境に適応して生き残るうえで大きな力になる。たとえば、精神科医のロバート・レイヒーは、悲観的な人と楽観的な人を対象に、カードを使った賭けという形の実験を行った。

 

どういう結果になったかは、だいたい想像できるだろう。悲観的な人は、自分が賭けに負けると予想し、そもそも賭けるのをやめる。一方で楽観的な人は、自分が勝つと予想する。その結果、悲観主義者は賭けで勝つことはないが、負けることもない。

 

そして楽観主義者は、すべてを運任せにするので、勝って大金を手に入れることもあれば、負けてすべてを失うこともあるーそして最終的には、たいていすべてを失うのだ。

 

とはいえレイヒーによると、「ずっと悲観的でいられる人はほとんどいない」という。「進化上の衝動なのか、ふと賭けてみることにしたところ勝ってしまい、それまでの悲観主義が崩れることもあるようだ」とレイヒーは言う。

 

カードゲームだけでなく、野生の王国でも結果は同じだ。先にも登場したマークスとネッセはこう言っている。

 

「食事をしていても、数秒ごとに顔を上げて肉食動物がいないかどうか確認しているシカは、食事をしたり、交尾したり、子供の世話をしたりする時間は減るかもしれない。そしてあまり頭を上げず、食べることに集中するシカは、食事の量は増えるかもしれないが、自分がエサになるリスクが大幅に高くなる」。

 

このように、不安傾向があること、自信がないことは、注意力を高めて損失を減らすという意味で、生き残るうえで利点になるのである。

 

つまり、自信の低さのもっとも大きな役割は、環境に適応して生き残る助けになることだ。自信の低さゆえに不安になり、それが自分の身を守ることにつながるー不安とは「自信がない理由を考えなさい」というメッセージであり、実力を高めて自信のなさを克服しようとするきっかけになるのだ。

 

とはいえ、生まれつき悲観的な性格で、いつも最悪の結果を予想するから自信が低いという可能性も考えられるだろう。それは「悲観バイアス」と呼ばれる状態だ。もちろん、何事においても自信がなく、悲観的で、ネガティブな人というのも存在する。そういった性格は、子供時代に感じた不安と、生まれつきの性格の組み合わせでできている。

 

いずれにせよ、自信のなさには環境適応のうえで利点があり、損失を最小限に抑えるという役割がある。ある特定の物事に対してだけ自信がない場合も、またはすべてにおいて悲観的な性格で、何事も悪いほうに考えてしまう場合も、自信のなさは、失敗を予防して自分を守ろうという脳の働きなのだ。

自信のなさはあなたを守る

自信がないとき、人は不安になる。そして不安になると、自分の身を守るために行動を抑制しようとする。それなのに、この自己愛過剰の社会は、自信のなさは悪だと執拗に言い張っている。

 

自信がないと感じる原因や、その効果については考えず、ただ自信がないときのイヤな感情ばかりに注目するー心配、緊張、不安、パニックなどだ。しかし、それらの感情にも、悪い結果を予防するという立派な役割があるのだ。

 

 

トマス・チャモロ=プリミュージク

 

ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン教授

コロンビア大学教授

マンパワーグループのチーフ・イノベーション・オフィサー

 

社会心理学者/大学教授

 

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※本連載は、トマス・チャモロ=プリミュージク氏による著書『「自信」がないという価値』(河出書房新社)より一部を抜粋・再編集したものです。

「自信がない」という価値

「自信がない」という価値

トマス・チャモロ=プリミュージク

河出書房新社

本書は、ロンドン大学・コロンビア大学教授にして人材・組織分析の権威が 社会心理学研究に基づき、”自信のなさ”の美点とそれらを武器にする戦略を解説する。 ・自信のある人はたいてい勘違いしている ・自信のなさはあ…

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