(※写真はイメージです/PIXTA)

残された家族が争うことなく、幸せに暮らすことを願って作成されるはずの「遺言書」。しかし、遺言書での相続でも「思わぬ不動産をつかまされることになる事例が増えている」と、不動産事業プロデューサーの牧野知弘氏は警告します。牧野氏の著書『負動産地獄 その相続は重荷です』より、その理由を詳しく見ていきましょう。

東京郊外の土地を相続した3姉妹に“諍い”が起きた理由とは

私が実際に相談を受けた事例をご紹介しましょう。相談に訪れたのは東京郊外の約400坪の土地を相続した三姉妹です。彼女たちの親は古くからの農家。相続にあたっては、農地を宅地に転換し、現金、有価証券とともに3人の娘に相続させました。

 

被相続人にあたる父親は詳細な財産目録を作成し、これを遺言書に添付。姉妹にそれぞれの資産の相続をさせることが書き込まれており、相続は滞りなく手続きされました。

 

活用方法の相談を受けた土地は、主要国道に面し、最寄り駅からも徒歩10分以内。等価交換方式という事業方式を用いて、分譲・賃貸マンションを企画しました。等価交換方式とは土地の時価を評価して、建物をデベロッパーが建設、デベロッパーが負担する建設費用とオーナーが持つ土地評価額を等価で交換することで、土地と建物を互いにシェアするものです。

 

オーナーは土地代相当の金額分の土地と建物をシェアできるので、その分を賃貸資産として運用でき、デベロッパーは建設費用相当分の住戸を一般に分譲することで利益をあげることができます。

 

最初の作業が姉妹の持つ土地の評価です。公図、謄本を徴求して驚きました。土地が区分所有になっていたのです。しかも、土地の一番奥から長女、次女、三女と三等分されています。国道に面しているのは三女の持ち分の土地です。

 

さて困りました。各人の土地の評価をする際に、3人の持つそれぞれの土地は評価が全く異なるのです。評価が異なれば、出来上がったマンションで三姉妹が所有できる部屋の数は当然異なります。国道に面する三女の土地を最も高く評価。一番奥になる長女の土地は、道路に面していないために評価は著しく低いものとなったのです。

 

怒鳴りこんできたのは長女。三姉妹で等分に相続したはずなのに、なぜ三女が高評価なのだと収まりません。おそらく父親は、三姉妹に等分に相続させることを前提に遺言書を記したと思われるのですが、きれいに三等分に分筆して区分所有にしてしまったのです。こればかりはどうにもなりません。

 

三女はにんまり。次女は外国居住でそもそもどうでもよい、という態度。つくづく、遺言書を書くにあたっては、不動産のことをよく勉強しておかないと、相続する子供たちにいらぬ対立を招くこととなると痛感した出来事でした。

 

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※本連載は、牧野知弘氏の書籍『負動産地獄 その相続は重荷です』(文藝春秋)より一部を抜粋・再編集したものです。

負動産地獄 その相続は重荷です

負動産地獄 その相続は重荷です

牧野 知弘

文藝春秋

資産を巡るバトルでも相続税対策でもない。 親が遺した「いらない不動産」に悩まされる新・相続問題が多発! 戦後三世代が経過していく中、不動産に対する価値観が激変。 これまでは相続財産の中でも価値が高いはずだった…

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