私たちの健康と財布への影響は?
今回の改定によって、外来・入院ともに基本的な報酬が上がります。3割負担の方では、初診料は21円、再診料は14円アップします。ほかにも患者の自己負担額増となるポイントを紹介します。
知っておくべき「選定療養」
日本の医療制度には「選定療養」という仕組みがあります。選定療養とは、簡単に説明すると、社会保険に加入している患者が追加費用を負担することにより、保険適用外の治療を、保険適用の治療と併せて受けられる医療サービスのことです。たとえば、入院時に患者が特別室などを選ぶと「差額ベッド代」が発生し、差額ベッド代は選定療養の扱いであるため、患者の自己負担となります。
今回、選定療養に「後発医薬品(ジェネリック)のある先発医薬品」が加わります。患者がジェネリックを選ばずに先発薬を希望した場合、ジェネリックとの価格差の25%が保険適用外となり、患者が自己負担します。
この措置は、価格の低いジェネリックへの移行を促進し、増大し続ける医療費を抑制することがねらいです。
対象となるのは、発売から5年以上経過したか、ジェネリックへの置き換えが50%以上進んでいる先発薬です。ただし、医師が先発薬を必要と判断した場合や、薬局にジェネリックの在庫が不足している場合などは、選定療養とは見なされません。
あくまで「患者自身が、ジェネリックではなく先発薬を希望した場合」のみ支払いが増額します。
自己負担額は増加するが…?
さらに特定の医療サービスに対する自己負担も増加します。
たとえば、入院時の食費も見直され、一般所得者の場合1日あたり30円アップします。これは昨今の食材費の高騰を反映したものです。
このように、一部の患者にとって個人負担増は明らかではあるものの、将来的には医療費全体の抑制に効果があります。医療費の適正化と医療保険制度の持続可能性という観点からも、必要な負担増であると筆者は考えます。
診療報酬改定によって効率化が進めば、医療提供コストは下がります。そして最終的には患者負担の軽減につながる可能性があるのです。
さらに、医療DX推進や医療連携の強化も、医療サービスの質そのものを変え、向上させます。患者が必要とする医療サービスへのアクセスも改善するでしょう。たとえば、従来なら都市部でないと受けられなかった専門的な治療が、遠隔医療によって受診しやすくなるはずです。
これらのポジティブな変化は、患者の健康状態そのものを改善し、長期的に見れば医療費の削減につながるはずです。そして医療費削減は、長い目でみると私たちの財布を守ることでもあります。
高品質な医療サービスを受け続けるために
2024年の診療報酬改定は、私たちの健康と財布に直接および間接的な影響をおよぼします。健康への影響は、今回ご紹介したとおり、医療へのアクセス改善と医療サービスの質の向上ですから、おおむねポジティブな影響といえるでしょう。
一方で、財布への影響は負担増となります。とはいえ、将来的な医療費負担を抑える方向での改革です。
診療報酬改定は、日本の医療制度が直面する課題に対処し、私たちが今後も高品質な医療サービスを享受し続けるための大切なステップなのです。
新上 幸二
株式会社アクシス
取締役
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