予約経路の多様化により、料金形態はますます複雑に
「あと何部屋インターネットに回そうか」・・・インターネット予約の普及によって、客室の売り方が大きく変わってしまった。
かつてホテルは主に旅行会社に販売を代行依頼してきた。そのため半年前から客室を仮押えされ、15〜20%の手数料を旅行会社に支払ってきた。
ところが、楽天トラベルをはじめとした宿泊予約サイトの登場や自社サイトのオペレーションを通した直販の道が生まれた。冒頭の言葉は、ホテルの営業担当者がネット予約用の客室数(価格も含めて)を独自の判断で決められるようになったという意味だ。
ホテルの客室は、当日までに売り切らなければ在庫は持ち越せない生鮮食品と同じ。一般にネット予約は直前の利用も多く、自社サイトを使って割安なプランを出すことでギリギリまで集客を図ることが可能だ。
そのぶんネット比率を増やし過ぎると収益率は悪化するというジレンマがある。ネット予約に慣れた利用者のなかには、数日前にいったん予約を入れておいて、料金の下がる前日にキャンセルを入れ、あらたに予約を入れ直すという人もいるという。これは航空券のように前金を取るシステムがホテルにないためだ(一般に航空券は予約とともに決済する。予約日が早いほど料金が安く、出発日に近づくほど高くなる。ホテルの逆なのである)。
こうしたなか、いかに収益性を低下させずに客室販売をコントロールするかが大きな課題となってきた。
今日、ホテルの予約経路はきわめて多様化している。自社サイトはもちろん、従来の旅行会社や楽天トラベルをはじめとしたネット旅行会社も加わった。それぞれの販売チャネルが料金やサービスの異なる商品を独自に造成することで、料金体系はますます複雑化している。
そのため、営業担当者はホテル全客室の予約状況を睨みながら、チャネルごとの客室数を調整したり、自社販売の間際予約分の料金を随時コントロールする必要が出てきた。単に客室がすべて埋まればいいという「客室稼働率至上主義」では収益を上げることが難しくなってきた。
いまやITがもたらす低価格化の波はホテル業界に大きな影響を与えつつある。旅行会社が客室の大半を確保していた時代とは業界慣行が大きく変わってしまったのだ。
[図表]ホテル予約経路の多様化
ネットビジネスでも問われる「付加価値」の存在
ホテル業界と旅行業界はかつて長い蜜月の時代を過ごしてきた。ホテルの予約は旅行会社でするもの、というのがある時期まで世間の常識だったからだ。
ある時期までという意味はインターネットが普及するまでということだが、航空券販売と同じで客室の稼働率を高めることがホテル業の収益のベースであるから、顧客の大半を送客してくれる旅行業界はいわば運命共同体ともいえたのである。
ところが、いまや国内のホテルや旅館はネット予約なしでは営業が成り立たなくなっている。その状況は、訪日外国人旅行者が急増するなか、決定的なものとなった。だが、これは逆にいえば、チャンスともいえる。たとえ無名の宿泊施設でも、ネット上でうまくアピールすれば、集客が可能となるからだ。
ホテルが装置産業である以上、いかにその日のうちに空室(在庫)を効率よく買ってもらえるかが課題である。しかし、やみくもに間際予約ということで値下げ競争に走ってしまうと、結果的に客室単価の低下が恒常化してしまうことで収益につながらない。
ネットビジネスにおいても、いかに付加価値をつけて販売するかが問われているわけだ。