今回は、外国客の受け入れで成功しているホテルの集客術を見ていきます。※本連載は、インバウンド評論家、フリーエディターとして活躍する中村正人氏の著書、『ホテル業界大研究』(産学社)の中から一部を抜粋し、活性化するホテル業界の最新事情を紹介します。

際立つ個性で「ネット経由の集客」に成功

歌舞伎町のラブホテル街の中に、人知れず外国客であふれるホテルがある。ロビーにはいつも世界中から訪れた外国客でにぎわっている。なぜこんなことが起きているのだろうか。

 

2013年12月に開業した新宿グランベルホテルのことだ。不動産事業を手がける(株)フレンドステージ(埼玉県上尾市)が運営。ラブホテルが並ぶ一画にひときわ目につく17階建て、客室数380室のシティホテル。なぜこの立地を選んだのだろうか。

 

丸山英男支配人は「東新宿はホテル激戦区。周辺に東横インやアパホテル、サンルートホテルなど、同じカテゴリーのホテルが集中している。この中で差別化するには、知名度のない我々が同じことをやっても勝負できない。だったら、思いっきり個性的なホテルをつくろうと考えた」と説明する。

 

現在、同ホテルの外客比率は8割以上。外客のうちアジアが6割で欧米が4割。ビジネス客とレジャー客は半々だという。

 

「開業当初以外はほとんどPRしていない。それだけに最初の3カ月は厳しかったが、徐々にネット経由で予約が入るようになり、14年秋には平均客室稼働率が80%、ADR(平均客室単価)は約1万3000円になった」

 

つまり、同ホテルはほぼネットだけで集客に成功したのだった。この事実は、多くのベンチャー企業のホテル業への参入にとって追い風になっている。

ホテル経営に今や決定的な影響を与える「ネット戦略」

だが、なぜ同ホテルはこれほど外国客の人気を呼んだのだろうか。ホテルグランベルはすでに渋谷と赤坂にあり、それぞれ異なるコンセプトで設計されている。

 

06年7月に開業した渋谷店は、若者のまちらしく、25〜35歳のトレンドに敏感な層をターゲットに、また同年12月開業の赤坂店は、ビジネスマン向きに大人の落ち着いた雰囲気を打ち出している。設計を担当したのは、キッザニア東京で有名なUDS株式会社だった。

 

「新宿店のコンセプトはHIP、エッジ、官能的。世界的に知られる歓楽街としての歌舞伎町のイメージを具現化したいと考えた。そのために起用したのがアジアの次世代アーティストで、彼らのデザインした客室を用意していることが最大の特徴だ。代表的なアーティストは、現在ニューヨークで活躍中のカンボジア人Tomtor氏。他にも香港や台湾出身のアーティストも手がけている」(丸山支配人)。

 

客室構成は、2〜11階がスタンダードルーム、12階がロフトルーム、13〜16階がエグゼクティブルーム、17階がスイート。客室タイプは全28種に細分化されている。特にロフトルームはアジアの子供連れファミリーがよく利用するという。

 

 

予約の半分以上はネット経由。圧倒的に海外のホテル予約サイトから入るという。「ネットの世界は写真の見せ方が大事。ホテルグランベルはデザインに特徴があるので、同じ価格帯のホテルの中から選んでもらえているのだと思う」(丸山支配人)。

 

好調な同ホテルは現在、新棟を建設中だ。いまやホテル経営に決定的な影響を与えるのはネット戦略である。選ばれるための見せ方が決め手となる。

ホテル業界大研究

ホテル業界大研究

中村 正人

産学社

訪日外国人旅行者の急増、外資系ホテルの日本進出…新業態ホテルも続々登場し、活性化を加速するホテル業界。 数々の話題やトレンド、ビジネスの最新動向など業界のことがもっともよくわかる書籍となっています!

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