会社の更なる発展を持続するために選択したM&A
医療における診療報酬と同じく、介護もまた国によって定められる介護報酬、とりわけ報酬改定によって経営が左右されることが少なくありません。
介護報酬制度の改定に対して、様々な策を講じようとしたものの好転せず、資本力のある法人の傘下に入ることにより、社員の雇用を維持しながら皆一丸となって、会社の更なる発展を成し遂げた事例です。
【図表 事例概要】
1.譲渡側の視点
譲渡側のC社は、首都圏に本社を置き、リハビリテーションに特化したデイサービス4施設を主力事業として、訪問看護や訪問介護、居宅支援等、複合的に介護保険サービスを展開する介護事業者です。
平成27年度の介護報酬制度の改定に対して、不安な気持ちを持ちながらも、社員の雇用を確保しつつ会社の更なる成長を目指して、経営ポートフォリオを入れ替えることを幾度となく検討してきました。
しかし、現状の会社の資金力では困難を極め、ほかに策がないか、よい解決方法がないかを模索していた時に、偶然、本書の初版『病医院・介護施設のM&A成功の法則』を読まれる機会がありました。それまでM&Aについて考えたことはありませんでしたが、社員の雇用継続、そして、会社の更なる発展を持続していくためには、最適な方法なのではと考えるようになりました。
譲受先候補の業種は多岐にわたりましたが、C社との相乗効果が大きく期待できる医療法人もしくは介護教育事業者で、かつ資本力のある法人の傘下に入ることで、社員の雇用を守るだけでなく、皆一丸となって更なる会社の発展を成し遂げることができると確信していました。
2.譲受側の視点
譲受側のD社は、医療法人グループ傘下の調剤薬局事業者です。本体の医療法人は首都圏において、主に老人ホーム等の施設に対し訪問医療を提供していましたが、より保険収入の点数が高い個人宅への医療提供の機会を望んでおり、その機会を得るためにM&Aも視野に検討していました。ちょうどそのころ当社よりC社の譲受について提案があり、デイサービス中心から脱却を成し遂げたいC社のニーズと、在宅医療をはじめたいD社のニーズが合致し、M&Aの検討が始まりました。
D社の社長は、C社の社長と実際に会い、手を組むことで生み出せる新規サービスやサテライト等の拠点拡大など、具体的な話がどんどんでき、経営マインドは既にお互いに同じ方向を向いていると感じたそうです。また、C社の社長がD社グループに加われば、D社グループの既存施設に対しても、介護のノウハウや事業所ごとの成長スピードが加速するだろうと、人材交流における相乗効果も非常に高いレベルで実現が可能になると考えました。
M&A後は互いの相乗効果を生かして早速、新しいサービスを提供する施設を作り、社員もいきいきと働いています。
雇用を継続し、サービス提供の場を増やすことにも成功
3.M&Aコンサルタントの視点
C社の社長は人生初のM&Aに臨み、譲受先のイメージを漠然としたものから具体的なものにするため、譲受側に条件を定めないオープンマッチングにて、まずは候補先を募りました。D社は2番目にM&Aについて正式に意思表示した企業であり、C社と手を組むことによる高い相乗効果を予感していました。
相乗効果について、順を追って挙げるのであれば、まずは資本力についてです。C社の資本力では、将来的に介護報酬の改定の度に160余名の社員の雇用を守りながら、会社を更に成長させる施策を生み出すのは現実的に困難でした。その点、潤沢な資金力を誇るD社の医療法人グループであれば、思い切った戦略の実現に向けて資本投下できます。
また、D社は医療法人グループなので、その傘下に入ることで介護事業におけるフィールドも広がりました。C社は社員の雇用を継続しながら、介護サービスを提供する場を増やすことにも成功しました。
次に、医療保険サービスと介護保険サービスの連携です。D社は、M&A前から施設居住者に対してだけではなく、個人宅へも在宅医療サービスを提供したいと考えていました。このたびC社と手を組めたことで、当初目論んでいた個人宅への在宅医療サービスの実現のみならず、医療と介護の連携による新たなサービス提供の開発も実現し、C社の既存エリアで初となる新しい介護サービスを提供する施設も作り上げることに成功しています。
最後は人材という観点から、譲渡側のC社の社長個人の能力です。本案件の締結によって、D社の医療グループに介護事業のノウハウと知見が加わり、グループ全体としての発展が、事業領域の拡大を伴ったエリア拡大につながっています。これらにより、現場で働く社員にとっても会社の成長が雰囲気としても感じられ、同時に、社員個々の成長を促すことにつながりました。
4.まとめ
地域包括ケアシステムの姿からも容易に理解できるように、国もそれに次ぐ各自治体も、在宅への流れを推し進めているのが現状です。
本事例の譲渡側法人は、譲渡するまではリハビリテーションに特化した優良企業であったにもかかわらず、介護報酬の改定という外部要因により、なすすべなく経営方針の刷新を本気で検討しなければならない状況に陥りました。医療サービスと介護サービスの融合など、事業領域の拡大はこれからの業界を生き抜くためには、必須の要件になっていくでしょう。
日本全国にはまだまだ数え切れないほど、事業の発展に悩んでいる事業者がいます。M&Aをきっかけに、より発展する機会を得て、不安要素を払拭し、そして社員やお客様の幸せを得ることができるのです。譲渡側でも譲受側でも、M&Aを検討することは、あらゆる面で自社の経営を見直すことにつながります。結果的にM&Aを選択しなくても、自社を客観的に見るよいきっかけになります。