経営的な苦境、後継者問題…病医院のM&Aは増加傾向
医療法人は、ご存知の通りすべて未上場です。なかには実質的に上場企業やそれに類する民間企業が直接・間接の如何を問わず医療法人を傘下に保有しているケースも見られます。しかしその場合も、医療法人そのものに国に定められた以上の情報公開の義務やルールは適用されていないのが現状です。
つまり一般の営利法人である企業とは違い、M&Aで医療法人が別の医療法人のグループに加わったとしても、大きく報道されることはありませんし、プレスリリースやマスコミを通じて報道されるようなこともありません。病院のM&Aが実際に行われていたとしても、病院で働く医療従事者や患者への影響を加味して、ごく限定された経営幹部にしかM&Aの事実を説明しないケースも多いようです。
しかし、本書籍の序章で紹介したように、2000年代に入って、診療報酬のマイナス改定の影響により経営的に苦境に立たされる医療法人が多くなってきたこと、また、それらに加え、“継がない後継者”に代表される深刻な後継者問題、更には病院の建て替えや大規模修繕投資計画をきっかけとした借入金に対する連帯保証をどうするか等の事業承継対策に向き合わねばならなくなってきたことなどから、医療や病院の世界でもM&Aが事業承継対策の手段として認識されてきたことを実感しています。
一方で、医療法人のM&A、または病院のM&Aそのものは医療法人や病院の母数の少なさから、株式会社を中心とする民間企業のM&Aに比較してその事例数も少なく、当社が2012年に著者となった『病医院・介護施設のM&A成功の法則』以外には実務や事例を紹介する手引書などの類は現在においても皆無です。
当社は、2012年以降も多数の病院のM&A支援の実績を積み上げて参りました。そして前回の出版から3年が経過し、当時よりも病院のM&Aの手法も多岐に渡ってきています。本書籍にはそのノウハウが蓄積されています。病院のM&Aは、一般企業のM&Aとは注意すべき点が違ってきます。
開設主体の多さがM&Aの複雑化の要因
(1)医療法人の種類
医療法人の類型は大きく分けて、社団医療法人と財団医療法人の2つの種類に分類されますが、ほとんどが社団医療法人です。また社団医療法人は「持分の定めあり」と「持分の定めなし」の2つに分かれます。
ちなみに、当社がこれまで手掛けた案件のほとんどが「持分の定めあり」に属しています。この「持分」というのは医療法人を設立する際の出資金額のことで、正確には「出資持分」といいます。株式会社における「株式」にあたります(詳細は後段)。この2つの類型から医療法人はさらに図表に示すように細分化されていきます。
【図表 医療法人の分類】
図表のように医療法人はさまざまな種類があります。ここでの留意点は、医療法人の開設主体の多さです。
医療法人以外の開設として、例えばもっとも代表的なのが「個人」ですが、ほかにも「国」「地方自治体」「社会福祉法人」「厚生連」「学校」「日赤」「企業」等々、これだけの主体があります。一般企業はここまで複雑ではありませんし、細分化もされていません。例えば、当社で相談を受けた事例として「生協」が開設主体の病院がありました。驚くべきことに出資者が30,000人以上という例です。
当然ながら、類型別にM&Aの手続きは異なってきますし、開設主体ごとに管轄している官庁が違っているため、進め方もケースごとに大きく異なります。つまり、医療法人の「類型と開設主体の多さ」が「M&Aの手続きを複雑化」させている大きな要因といえます。複雑できめ細かい手続きが必要な病院のM&Aは、後々のトラブルを避けるためにも専門家に相談しながら進めなければなりません。